日本が再び世界をリードするための、“シン”モノづくりの世界:ディープな「機械ビジネス」の世界(9)(2/2 ページ)
産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する本連載。最終回となる今回は、日本のモノづくりの今後を左右する、デジタル化や国際標準化について取り上げます。
転換点に立っている日本のモノづくり
日本の製造業は、この20年で大きく姿を変えました。グローバル展開を加速させ、海外売上比率を一気に高め、「国内でつくって海外で稼ぐ」から、「世界で稼ぐ」構造へとシフトしてきたのは紛れもない事実です。
ただ、その一方で課題も鮮明になっています。グローバルビジネスに見合った経営の仕組みづくりが追い付かないまま拡大を続けた結果、利益率は伸び悩んでいます。その要因の一つが、先ほど述べた「DXの使い方」にあります。
多くの企業でDXは現場の効率化や個別改善にとどまり、新たな事業機会の創出や収益モデルの変革には十分に結び付かず、デジタルを導入しても、それが「利益を生む仕組み」には昇華しきれていないようにも思えます。
この状況から抜け出すために求められているのが、CX(コーポレートトランスフォーメーション)です。単なる業務改善ではなく、経営と組織そのものを時代に合わせて再設計する。そしてDXによって製造機能を全体最適化し、ビジネスモデルそのものを変革していく。この両輪がかみ合ってはじめて、「稼ぐ力」は本質的に強化されるといえます。
特に重要なのが人材戦略です。いまやグローバル企業同士の人材獲得競争は激しさを増しており、日本本社だけではなく、海外現地法人も含めた「全体最適」で人材を活用する視点が欠かせません。
そのためには、これまでの「日本+現地法人」という分断された連邦型経営から脱却する必要があります。国内と海外を切り分けるのではなく、シームレスにつながる一体経営へと仕組みを整えた上で、ヒト/モノ/カネ/データといった経営資源を横断的に統合し、共通基盤として再構築していくことが求められています。
いま問われているのは、グローバルに展開する「規模」ではなく、グローバルで稼ぎ切る「構造」です。日本の製造業はその転換点に立っているのです。
問われているのは、デジタルを「使っているか」ではない
「DXによって製造機能を全体最適化し、事業機会を拡大していく」。このテーマは、いまや避けて通れない経営課題です。その実現に必要なのは、経営戦略と連動したデジタル戦略を描き、製造現場の業務プロセスを俯瞰的に理解したうえで、的確にデジタルを実装していくことです。「部分最適の積み上げ」では、もはや競争には勝てません。
問われているのは、「デジタルを使っているか」ではなく、「デジタルで何を変え、どこまで競争力を高められるか」という、その一点に尽きるのです。
「工場のスマート化」は、製造業のビジネス競争力を強化する源泉です。日本の製造業は高い技術力がある一方、コストダウンを優先するあまり、老朽設備をだましだまし使い続けてきた側面があります。その積み重ねが、結果的にスマート化の遅れを招いたという見方もあり、そうした指摘にも耳を傾ける必要があるでしょう。
今こそ、「コストカット型経営」から「価値創造型経営」に転換し、日本の強みである機械設備と現場力を最大限に活用しながら、デジタルと融合させ、世界で稼ぎ切る事業構造を作る必要があります。スマート化とは企業の稼ぎ方そのものを変える挑戦です。それが達成されたときには、日本が世界をリードする日が再来すると筆者は信じています。(完)
⇒連載「ディープな『機械ビジネス』の世界」のバックナンバーはこちら
著者略歴
那須直美(なす・なおみ)
インダストリー・ジャパン 代表
工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。
産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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