専門分野や担当部署の枠を超えた「リベラルアーツ的視点」の重要性:必要とされるモノづくりの追求(3)(2/2 ページ)
連載「必要とされるモノづくりの追求」では、研究開発と実際の現場/ユーザーとの間に生じるギャップを整理しながら、技術の価値をどこに置くべきかを問い直し、必要とされるモノづくりの在り方を考察する。第3回は、専門分野や担当部署の枠を超えて物事を見ることが、なぜ“必要とされるモノづくり”につながるのかをテーマに、その重要性を考える。
「触れる」ことで、初めて見えてくる課題
だからこそ私は、研究開発において「実際に体験してみること/触れてみること」を非常に重視しています。
私の研究室では、学生に積極的に展示会へ行くことを勧めています。展示会では、実際の製品や開発中の試作品が並び、論文やネットでしか見ることのなかった技術を、自分の手で触れ、体感できます。そうすることで初めて、「思ったよりも重い」「装着しづらい」「これでは日常生活で利用するのは難しそうだ」といった課題が見えてくるのです。
“本当の課題”というのは、机の上では見つからないことが多いと私は考えます。そして、もう一つ重要な点もあります。それは、「どの視点からその課題を見ているのか」ということです。
必要なのは「リベラルアーツ的視点」
こうした話をすると、「現場や最新技術を見れば解決する」という話に聞こえるかもしれません。もちろん、現場を見なければ課題は見えてきませんし、最新技術を実際に体験しなければ残された課題も見えてこないと私も考えています。しかし、解決策としてはそれだけでは不十分です。
本質的に重要なのは、
1つの立場だけで物事を見ないこと
です。
近年、教育分野などであらためて注目されている考え方に「リベラルアーツ」があります。リベラルアーツとは、1つの専門知識だけでなく、幅広い教養や多角的な視点を持つことで、物事を俯瞰して捉える力を養う考え方です。
工学の世界では、「専門性こそ重要」という考え方が広く浸透しています。もちろん、専門知識を持つことは、それだけで自身の武器(アドバンテージ)であることは間違いありません。
しかし、“必要とされるモノづくり”という観点では、専門性だけでは解決できない課題が増えているのも事実です。例えば、医療機器であれば、工学の知識だけでなく、医学や倫理学、制度といった視点も重要になります。介護機器であれば、心理学や安全性なども考えなければなりません。また、製品化を目指す上では、市場や価格、営業戦略なども重要な視点になります。
そのように考えると、総合力や多角的な視点は極めて重要といえるのではないでしょうか。さらに、専門分野の掛け合わせが、アイデアの源泉になる可能性も秘めています。そして、先ほど述べた「実際に触れてみる」という行動も、まさにこのリベラルアーツ的視点の一つだと考えています。
専門性を持ちながらも、自分の専門外へ踏み出すこと――。この考え方は、“必要とされるモノづくり”を実現する上で何より重要だと感じています。だからこそ私は、「まず動いてみる」ことを大切にしているのです。
頭で考えるだけでなく、実際に現場へ行き、触れて、担当者と話し、試してみること、そして情報を常にオープンに捉えることが大切です。その一歩が、新たな視点と新たな可能性を生み出すきっかけになるはずです。
- 頭の中だけで考え続けるのではなく、まずは動いてみる
- 自分の専門や立場にとらわれず、多角的に物事を見る
この2つを意識するだけで、見えてくる世界は大きく変わるはずです。 (次回へ続く)
筆者プロフィール
伊丹 琢(いたみ たく)
明治大学理工学部電気電子生命学科 専任講師
スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)主宰
1992年生まれ。2020年に博士号(工学、三重大学大学院工学研究科)を取得。2020年4月から2024年3月まで青山学院大学理工学部で助教を務め、2024年4月から明治大学理工学部電気電子生命学科に着任し、スマートメカトロニクス研究室(伊丹研究室)を主宰する。2022年4月から岐阜大学大学院医学系研究科博士課程(社会人・リハビリテーション学)に在籍。医療・福祉デバイスを中心とした、「現場で本当に必要とされる技術」を志向した研究開発に取り組む。
また、若者たちが輝ける未来社会を実現することを重要な使命と捉え、教育・社会連携活動にも積極的に取り組む。地方自治体や企業と連携した「学生未来プロジェクト」や「未来イノベーションプロジェクト」を立ち上げ、学生が実社会の課題に向き合いながら、研究開発・実証・発信までを経験できる教育研究プロジェクトを多数推進。企業・医療機関との共同研究、展示会への出展、地域社会との連携活動などを通じて、研究成果を社会に開く実践的な場づくりを行う。
⇒ スマートメカトロニクス研究室|伊丹琢|明治大学|神奈川県
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