黒船「フィジカルAI」襲来 日本におけるヒューマノイド開発の最適解とは:ロボット開発クローズアップ(2/4 ページ)
アールティが、産業技術総合研究所、川田テクノロジーズ、川崎重工業などと共同で「フィジカルAI勉強会」を開催。ヒューマノイドの実用化に必要不可欠な技術としてフィジカルAIという言葉そのものや技術成熟度への認識については混乱が見られる中、今回の勉強会は現時点でのフィジカルAIの捉え方を共有することを目的に開催された。
従来知見と新手法で安定稼働可能なヒューマノイド実現を目指す産総研
産総研は25年にわたってヒューマノイドを開発してきた。カワダロボティクスのヒト型協働ロボット「NEXTAGE」も産総研の成果を受けて製品化されたロボットである。2018年には重労働が可能なヒューマノイド「HRP-5P」を開発。その後、2022年には女性型のヒューマノイド「HRP-4C」を改造した「HRP-4CR」をアバターチャレンジ向けに開発。川崎重工業の人共存型ヒューマノイド「RHP Friends」のソフトウェア開発などを行ってきた。現在、CNRS-産総研ロボット工学連携研究室 JRL(Joint Robotics Laboratory)としてフランス国立科学研究センター(CNRS)との共同研究も行っている。
近年は、ヒューマノイドを使ったロバストなピッキングなどの取り組みが行われている。産総研では、ヒューマノイドは工場の生産ラインだけでなく、建築など作業環境の構造化そのものが困難な場所、作業者自身が製品の内部を移動するようなシーン、移動とマニピュレーションの協調などのシーンでは多自由度を持つヒト型ならではの利点を生かせると考えており、大型構造物の組み立てをターゲットとした研究開発を進めている。産総研 情報・人間工学領域 主任研究員の熊谷伊織氏は具体例として「航空機組み立て」や「石こうボード施工」の様子などを紹介した。
これらのシーンで課題となるのが、能動的に環境と接触しながら建造物の内部を移動する点だ。そこで、積極的な多点接触動作を用いることで、足場が狭い場所でも移動できる能力の開発などを進めている。搬送する大型構造物そのものによる視界の遮蔽(しゃへい)、重量物搬送による移動誤差に対しても、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)と記憶を用いた干渉回避などに取り組んでいる。
ロボットそのものの自律機能の開発だけではなく、高度な専門技術を必要とする作業の自動化のために、遠隔操作アバター技術の開発も行っている。アバターロボットには「HRP-4CR」を用いて、人がVR(仮想現実)ヘッドセットやハプティックグローブなどを装備して操作する。操作者は力覚フィードバックを感じながら、多指ハンドを使った道具操作などを実行する。反力の自律的な制御などはロボットが行う。例外的な状況では専門技能を持つ操作者が介入して問題を解決するといった自律制御と遠隔操作の統合を目指している。
自律制御と遠隔操作の統合例として熊谷氏は「2023国際ロボット展」でのRHP Friendsによる介護支援(移乗)と、ブレーカー操作を紹介した。この他、脚立を昇降してブレーカーを操作する、すなわち遠隔操作と多点接触動作の統合にも成功しているという。
モデルベース手法のロボットとフィジカルAIのロボットの違い
ここまでは既存のモデルベース手法を用いたロボット技術の話である。では、いわゆるフィジカルAIといわれているロボットは何が違うのか。
ロボットはノイズを含む現実世界の情報をセンシングして、行動を出力する。モデルベース手法はそのために必要な中間的な課題をモデル化して演繹的に課題を解く。そのときに明示的な制約条件の担保を前提としており、モデル化誤差には脆弱(ぜいじゃく)という弱点がある。一方、フィジカルAIは、学習ベース手法を基本としており、物理シミュレーションや教示を用いて収集した大規模なデータから動作や共通ルールを帰納的に獲得する。非自明な外乱にロバストである一方、膨大なデータ収集やサンプリング効率には課題がある。熊谷氏はこのように整理した。
産総研では強化学習を使った歩行学習研究などを進めている。「良い歩行」といってもさまざまな指標があり、多自由度ロボットでは強化学習における報酬関数の設計が難しい。そこでCaT(Constraints as Terminations)という制約を「学習の終了条件」として扱うことで複雑なペナルティー項を報酬関数に組み込む必要がなくなる強化学習手法を用いてうまく誘導する研究などを行っていると紹介した。
また、双腕ロボットAI開発のハードルを下げるために、産総研では器用な動作の実現を目指した双腕ロボットの作業データセット「AIST-Bimanual Manipulation」を無償公開している。ソフトウェアフレームワーク「RoboManipBaselines」との連携により、開発環境構築が容易となる(ニュースリリース)。
その他、学習ベース手法を使って、VLM(視覚言語モデル)を用いた物体操作、強化学習による不整地歩行、最適化問題の可解性に基づく接触点の学習、触覚情報を用いた全身物体操作学習などを進めていると紹介した。全身物体動作生成のロバスト性の向上などにも取り組んでいるという。
産総研では、産業界の現場で安定稼働可能なヒューマノイドロボットを目指しており、従来型のモデルベース手法の知見と、新たな学習ベース手法の知見を組み合わせることが重要だと考えていると締めくくった。
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