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「新しい機械を買うな!」工程並べ替えで生産増をかなえる「IEの魔術」とは“脱どんぶり勘定”の現場改善術(2)(1/3 ページ)

製造、モノづくり領域における現場の複雑な課題を整理し、改革を前に進めるための「実践的な手順」や「陥りやすいワナ」を具体的に解説する本連載。今回は「ボトルネックの特定」と「工程の並び替え」をテーマに、モデルケースの下でIE活用の具体的なテクニック/考え方を紹介します。

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「そのロボット、本当に必要ですか?」

「今の生産ラインでは注文数に追い付きません。最新の高速自動機を導入して、能力を増強させてください。見積もりは2000万円です」

 もしあなたが製造現場の責任者で、部下からこう言われたらどう判断するでしょうか。

 「注文が増えているなら仕方ない、投資しよう」とハンコを押すのか。それとも、「待て、まだやりようがあるはずだ」と踏みとどまるのか。

 前回の「製造DXの成否は何で決まるか、『時間当たり100個できます』に隠されたウソ」では、過去の実績平均(成り行き能力)で満足するのではなく、「IE(インダストリアルエンジニアリング)」の考え方を基に物理的な限界値である「理論原単位」を知り、それを元に製造工程を分析していくことの重要性をお話しさせていただきました。

 「今の設備でも、理論上はもっと速く作れる」。この事実に気付くことが、全ての改善のスタートラインです。今回は、その概念をさらに一歩進め、IE活用の具体的なテクニック/考え方について、皆さんと一緒に手を動かしながら考えていきたいと思います。

 テーマは、「ボトルネックの特定」「工程の並び替え」です。実は、多くの現場では、作業の順番を変えるだけで、あるいは人の動きを少し変えるだけで、数百万円、数千万円の設備投資と同じ効果を出すことが可能です。「そんなばかな」と思われるかもしれません。しかし、これは魔法ではなく、IEに基づいたロジックです。

 ある架空の(しかしどこにでもある)生産工程をモデルケースとして、実際に計算を行いながら、そのカラクリを解き明かしていきましょう。

投資が退化に? 理論原単位のおさらいと「停滞」の正体

 本題に入る前に、前回の重要なポイントを少しだけおさらいさせてください。

 「理論原単位」とは、設備や人が物理的に発揮できる最高速度のことです。

 例えば、スペック上「1個当たり10秒」で加工できる機械があるなら、理論原単位は10秒です。しかし、実際には「段取替え」「チョコ停」「作業者の手待ち」「部品供給の遅れ」などが積み重なり、実績としては「15秒」や「20秒」かかっているのが現実です。多くのDX(デジタルトランスフォーメーション)プロジェクトや自動化の議論で失敗するのは、この「実績(20秒)」を基準に考えてしまうことです。

「今は20秒かかっているから、18秒で作れるロボットを入れよう」

 これでは、本来10秒で作れるポテンシャルを持っている工程に、わざわざ遅いロボットを入れることになりかねません。これは「投資」ではなく、むしろ「退化」です。重要なのは、機械そのもののスピードを上げることではありません。

 「機械が動いていない時間」や「人が付加価値を生んでいない時間」をいかに削ぎ落とすか。ここにこそ、生産性向上のカギが隠されています。そして、その「無駄な時間」の正体を突き止めるために不可欠なのが、今回ご紹介する「工程分析」「ボトルネックの特定」です。

【実践ワーク(1)】その工程、本当に「直列」でなければなりませんか?

 では、ここからは具体的な事例を使って、解説をしていきましょう。皆さんの工場の、ある組み立て、加工ラインをイメージしてください。

モデルケース:製品Xの加工/組立工程

 非常にシンプル化したモデルですが、以下のような4つの工程(A、B、C、D)を経て製品が出来上がるとします。

  1. 工程A(セット/準備):手作業。治具に部品をセットする(所要時間10秒)
  2. 工程B(B機による加工):自動機。スイッチを押すと自動で穴あけ加工を行う(所要時間60秒)
  3. 工程C(C機による加工):自動機。スイッチを押すと自動で刻印/ラベル貼りを行う(所要時間40秒)
    • 重要条件:工程Bと工程Cは独立した機械で行うため、同時進行が可能
  4. 工程D(取り出し/次工程へ):手作業。完成品を取り出し、箱に詰める(所要時間20秒)

 さて、このラインには作業者が1人います。この作業者は、どのような順番で仕事をしているでしょうか?

パターン(1):ごく一般的な「ナリユキ」作業(直列進行)

 多くの現場で見られる、最も直感的なパターンです。作業の流れを時系列で追ってみましょう。

  1. 【工程A】:作業者が部品をセットする(10秒経過)
  2. 【工程B】:作業者がB機のボタンを押す
    • ここでの行動:作業者は、機械が動いている60秒間、エラーが起きないか心配なので機械の前で腕組みをして待っています。あるいは、次の準備もせずにぼーっと眺めています(60秒経過)
  3. 【工程C】:B機の加工が終わったら、ワークをC機に移し、ボタンを押す
    • ここでの行動:B機と同様に、C機が動いている40秒間、作業者は待機しています40秒経過)
  4. 【工程D】:C機の加工が終わったら、取り出して箱詰めする(20秒経過)

パターン(1)のサイクルタイム計算

 サイクルタイムとは、ラインが1つの製品を完成させるまでにかかる時間のことをさします。「ナリユキ」作業(直列進行)のサイクルタイムはどうなるでしょうか?

10秒(工程A)+60秒(工程B)+40秒(工程C)+20秒(工程D)=合計130秒

 これが、今のこのラインの「実力値(実績)」として管理されています。1個作るのに130秒。1時間(3600秒)で約27個の生産能力です。

 ここで「生産性を上げろ!」と号令がかかると、現場は何をするでしょうか?

 「もっと速く部品をセットしよう!」と慌ててミスをしたり、「機械の加工スピードを上げられないか?」と設定をいじってドリルを折ったりします。あるいは、「B機の待ち時間が長いから」と言って、さらに高速なB機(例えば40秒で終わる最新機種)への買い替えを提案します。

 しかし、IEの視点を持てば、お金を一銭もかけずに、劇的に時間を短縮できます。

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