宇宙まで見据える「建設機械」の世界〜災害に強い社会の構築に向けて:ディープな「機械ビジネス」の世界(6)(2/2 ページ)
本連載では、産業ジャーナリストの那須直美氏が、工作機械からロボット、建機、宇宙開発までディープな機械ビジネスの世界とその可能性を紹介する。今回は、日本が高い国際競争力を持つ「建設機械」にスポットを当てる。
デジタルツインの活用で月面稼働に挑戦
未来を見据えた建設機械の具体例としては、コマツが月面環境に適応する建設機械の研究開発を進めています。
この開発では、月面の現物からのデータ収集が難しいため、現場環境や実機の動きを精度よく施工シミュレーター上に再現する「デジタルツイン技術」が活用されています。デジタルツインとは、ざっくり言うと「リアルから集めたデータに基づいて、コンピュータやネットワーク上の仮想空間に同じ環境を再現する技術」のことです。
この研究は、建設機械の電動化や自律化によって、シミュレーターに対して「月面建設機械/無人化施工技術の開発」に必要な機能を追加し、精度を向上させることが狙いです。今後は、このシミュレーターによって月面での施工を検証し、月面建機を実現するための具体的な検討や、月面の土質調査のための掘削試験に向けて、月面で使用可能な部品や素材を使って小型軽量の掘削試験機の開発を進めていくことになっています。
私たちが地球上で生活している限り、地震や豪雨などの自然災害への備えは避けて通れません。上記のような「月面での建設」を想定した技術開発を、「地上での建設活動」に応用することで、建設機械の自動化や高度化がさらに進むと期待されています。
例えば、インフラの損壊などによって被災状況の把握が困難な場合でも、遠隔操作を活用することで、現場に立ち入ることなく作業を的確に進めることが可能になります。これにより、省人化を図りながらも救援活動や復旧作業の計画を迅速に立案し、スピーディーに実行へ移すことができるようになるのです。
こうしてみると、これら最先端分野の市場は、現時点ではまだ成熟には達していないと言えますが、災害対応やインフラ維持の重要性が高まる中で、近い将来には「建設機械産業のコア分野」へと成長する可能性を十分に秘めています。
「2040年の建設現場」はどうなっている?
さて、ここまで建設機械の分野における「現在進行中の技術開発」について述べてきましたが、これら開発中の建設機械は、2040年には建設現場でどのように活躍しているのでしょうか。
日本建設機械工業会が公開している2040年を想定したショートムービーを見ると、現場の無人化が大きく進展している様子が描かれています。2040年には、無人の建設機械が稼働し、ロボットが資材を搬送、さらには管理業務の一部もロボットが担い、それらをオフィスから人がコントロールしています。
このムービーでは、突発的な大規模自然災害が発生した際にも、無人の建設機械が被災地で活躍する姿が示されています。オペレーターは安全な場所から遠隔操作システムを用いて作業を行い、VR(仮想現実)ゴーグルを装着した人の動きに連動して、ロボットハンドががれきのような物体をつかむ場面も描かれています。これらの技術は、2040年には実現可能なものとして期待されているのです。
建設現場には、物理的に立ち入りが難しい場所や危険を伴う環境も少なくありませんが、場所にとらわれずに現場状況を把握し、遠隔地の関係者と視界を共有できれば、安全性の向上や意思決定の迅速化にも大きく貢献します。「現場にいなくても、あたかもその場にいるかのように作業が行える環境」が整えば、建設現場の在り方は大きく変わっていくでしょう。
月面建設を見据えて磨かれる最先端技術は、やがて地上のインフラ整備や災害復旧、さらには都市づくり全体を支える基盤技術へと発展していくはずです。その中で、建設機械は単なる「働く道具」から、社会課題の解決を担う存在へと進化します。2040年の建設の現場は、「より安全で、より持続可能な社会」を支える中核要素として、その役割を一段と高めていくことが期待されているのです。
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著者略歴
那須直美(なす・なおみ)
インダストリー・ジャパン 代表
工業系専門新聞社の取締役編集長を経てインダストリー・ジャパンを設立。機械工業専門ニュースサイト「製造現場ドットコム」を運営している。長年、「泥臭いところに真実がある」をモットーに数多くの国内外企業や製造現場に足を運び、鋭意取材を重ねる一方、一般情報誌や企業コンテンツにもコラムを連載・提供している。
産業ジャーナリスト兼ライター、カメラマンの二刀流で、業界を取り巻く環境や企業の革新、技術の息吹をリアルに文章と写真で伝える産業ドキュメンタリーの表現者。機械振興会館記者クラブ理事。著書に「機械ビジネス」(クロスメディア・パブリッシング)がある。
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