同じ機械なのに1号機はOK、2号機はNG 設計者を悩ませる“再現しない不具合”:冴えない機械の救いかた(1)(3/4 ページ)
本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第1回は、同じ図面で製作した複数台の直動パーツフィーダーにおいて、ボルトが1週間で折れたり折れなかったりするという、再現性のない厄介な事例を紹介する。
AMラジオは共振回路だ
筆者は、例え話をあまり使いません。というのも、例え話はかえって話をややこしくして、分かりづらくなることがあるためです。また、ディベートなどでは、少しニュアンスの異なる例え話を持ち出して、議論のロジックを微妙にねじ曲げる手段として使われることもあります。
今回は特別に、AM(Amplitude Modulation)ラジオを取り上げました。FM(Frequency Modulation)ラジオではないことに注意してください。図7に、昭和時代のラジオを示します。選局ダイヤルとボリュームがあり、どちらも回転式です。
このラジオは「スーパーヘテロダイン方式」ですが、電子工作少年だったころの記憶を基に、図8に初歩的なラジオ回路を示します。
トランジスタの矢印の向きが逆なのにお気付きかもしれません。これはゲルマニウムトランジスタで、金属製の丸い缶に入っていました。定番の「2SC1815」(シリコントランジスタ)では動作範囲が狭く、なかなかラジオが鳴らないのですが、ゲルマニウムトランジスタは動作範囲が広いため、割と簡単にラジオが鳴ります。
「バリコン」とは“Variable Condenser”の日本語名で、容量(キャパシタンス:C)を可変にできるコンデンサーのことです。ボリュームの説明は不要でしょう。先に、バリコンがどのようにして容量を変化させるのかを説明します。図9に、コンデンサーの構造を示します。2枚の金属板の間に、誘電体(絶縁物)が挟まれています。
コンデンサーの容量は、式1で表されます(参考文献[1])。
真空の誘電率は非常に重要な物理定数ですが、単位にファラッド[F/m]と、コンデンサーの容量と同じ単位(F)が使われていて、何となく別の分野から借用しているように見えます。ファラッドはC/V(クーロン/ボルト)で、クーロンはアンペアと秒の積、ボルトとアンペアの積はW(ワット)なので、真空の誘電率の基本単位はA2s4/kg.m3となります。とはいえ、やはりF/mと表記した方が分かりやすいですね。ここでのポイントは、コンデンサーの容量は対向する電極の面積Sに比例するということです。
図10にバリコンを示します。2つの電極が対向し、その間には隙間があります。
図11に、バリコンの原理を示します。電極1が軸の回転と連動しており、軸を回すことで電極同士の対向面積が変わります。その結果、コンデンサーの容量が変化するのです。この場合、空気が誘電体であり、比誘電率は1.000586[-]だそうです(参考文献[1])。
図9を見ると、コイルとバリコンが接続されています。このような回路は「LC共振回路」と呼ばれ、ある周波数の刺激を与えると、その周波数で大きな電流と電圧が発生します。そのときの共振周波数は、式2で求められます。
インダクタンスの単位であるヘンリー(H)についてのうんちくは、今回は割愛します。例えば、周波数が1134[Hz]のラジオ放送を聞きたい場合、バリコンの軸を回してコンデンサーの容量Cを変化させ、共振周波数を1134[Hz]に合わせるのです。バリコンの軸は、昭和のラジオ(図7)の選局ダイヤルに直結しています。というか、同軸です。
LC共振回路は、このシリーズの後半でも何度か登場する予定です。
参考文献:
- [1](社)電気学会|電気磁気学(1988)
「オールナイトニッポン」を聞きたい。でも……
メカは通常、共振しないように設計しますが、今回の例はあえて共振状態で運転する機械であったため、AMラジオの話が登場しました。かなり脇道にそれてしまいましたが、ラジオの選局ダイヤルとボリュームは、例え話としてまさにピッタリなのです。
ラジオの選局ダイヤルとバリコンの軸に少しガタがあり、軸がうまく回らず、ラジオ放送が聞きづらくなった状態を想像してみてください。雑音が入ったり、音声が小さくなったりしています。それでも、あなたは「オールナイトニッポン」を聞きたいのです。となれば、ボリュームを上げるしかありませんよね。まさにこれと同じ状態が、直動パーツフィーダーで発生していました。
1号機はうまくいっているのに、2号機はダメというような再現性のない不具合の場合、顧客はかなり不安になります。そして必ずといってよいほど、「その対策は本当に大丈夫ですか?」という問いが付いて回ります。現象が再現しない原因を突き止め、それを明確に説明できれば、対策の有効性を顧客に理解してもらえます。当時の仕事は、まさにそのためのものでした。
ボルトが折れる/折れない理由は糸魚川
国家が重要なことをやるのですから、当然リスク分散が図られていました。依頼主の担当者から「作業所は、実はもう1カ所ありまして、そちらではボルト折れの問題は全く発生していないんです。あそこの空港の近くです」との発言がありました。そのとき、筆者はその理由にも気付きました。成田空港は糸魚川の東側にあり、もう1つの空港は糸魚川の西側に位置しているのです。
再現性のない不具合の内容と、糸魚川との関係について説明したいところですが、その前に「ばね−マス系」と呼ばれる振動挙動について紹介しなければなりません。次回の内容で詳しく解説したいと思います。
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