欧州委員会は本当にエンジン車禁止を撤回したのか、自動車規制緩和案を読み解く:和田憲一郎の電動化新時代!(61)(3/3 ページ)
欧州委員会が2025年12月16日に発表した自動車分野における規制緩和案に対して、「エンジン車禁止の撤回」という言葉で語る報道も多くみられる。そこで、欧州委員会の公表内容を整理するとともに、今後の動向について筆者の考えを述べてみたい。
今回の発表は規制緩和「案」、正式な法案成立の時期は
今回の規制緩和案では、まだ明らかになっていない点も多い。例えば、EU域内産の低炭素鋼の成分要件や、e-Fuel/バイオ燃料に関する製造要件、認定基準などがある。また、今回の規制緩和案で新たに導入された「小型手頃な価格の自動車」となるEU域内で製造される小型BEVに関しても、全長4.2m以下と指定されているものの、詳細条件は未定である。
このため、2026年中に欧州委員会から不透明となっている詳細要件が提示され、それを基に本格的な議論が開始されると思われる。そう考えると、これまでの制度改訂の経緯から推測するに、2027年にCAFE規制改訂の可否と合わせて、欧州委員会の規制緩和案も結論が出るのではないだろうか。
本件に関する筆者の私見――規制が大幅に緩和されたとは言い難い
欧州委員会から提案されたパッケージ法案「Fit for 55」はとても興味深い法案の一つであった。同パッケージには、自動車分野にとどまらず、「EU排出量取引制度の改正」「炭素国境調整メカニズム規則案」「持続可能な航空燃料イニシアチブ」、さらには「グリーン欧州海運領域イニシアチブ」など、多岐にわたる法案が含まれている。その総量は筆者が数えただけでも4000ページを超え、欧州委員会が総力を挙げたことが分かる。
しばしば誤解される点として、“欧州委員会”という名称から小規模な会議体と思われがちであるが、実際には、欧州委員会はEUにおける行政執行機関、つまり「内閣」に相当する組織であり、約3万人の職員を擁する巨大な官僚機構である。
米国が第二次トランプ政権下で環境規制における国際的リーダーシップを失ったいま、世界で環境規制を引っ張っているのは、まぎれもなく欧州委員会であろう。今回の自動車に関する規制緩和案に関しても、理想と現実のはざまで、業界への要望に対し、少しだけ柔軟性を持たせたように思える。
欧州のCAFE規制において、2025年目標(2025〜2029年に適用)が変わらず生きていることを考えると、規制が大幅に緩和されたとは言い難い。このため、日本の自動車業界関係者も、基本はそれほど変わっていないという認識で、今後も対応していくことが求められるのではないだろうか。
なお、EU域内で製造される小型BEVは全長4.2m以下と規定されており、全長3.4m以下である日本の軽自動車規格とは寸法要件が大きく異なる。一部では日本の軽自動車業界にとっても有利になるとの意見もみられるが、EU域内生産が前提であること、車体寸法が日本の軽自動車よりも一回り以上大きいことを考えると、両者は本質的に別カテゴリーの車両である。このため、日本の自動車メーカーにとっては、EU域内で現地生産しない限り直接的なメリットはほとんどないと思われる。
筆者紹介
和田憲一郎(わだ けんいちろう)
三菱自動車に入社後、2005年に新世代電気自動車の開発担当者に任命され「i-MiEV」の開発に着手。開発プロジェクトが正式発足と同時に、MiEV商品開発プロジェクトのプロジェクトマネージャーに就任。2010年から本社にてEV充電インフラビジネスをけん引。2013年3月に同社を退社して、同年4月に車両の電動化に特化したエレクトリフィケーション コンサルティングを設立。2015年6月には、株式会社日本電動化研究所への法人化を果たしている。
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