中国自動車メーカーが目指す知能化とスマート化、2026年からAIDVの競争が始まる:和田憲一郎の電動化新時代!(60)(1/3 ページ)
近年、次世代自動車の議論では「電動化」や「EVシフト」に加え「SDV」といった用語が用いられるようになっている。一方、「知能化」や「スマート化」という概念を用いて将来像を表すことが多い中国自動車メーカーは、SDVを超えた「AIDV」を競争領域に想定しつつある。
近年、次世代自動車に関する議論において、「電動化」や「EVシフト」といった言葉に加え「SDV(Software Defined Vehicle:ソフトウェア定義型車両)」といった用語も広く用いられるようになってきた。一方、中国自動車メーカーは、「知能化」や「スマート化」という概念を用いて将来像を表すことが多い。では、なぜ中国自動車メーカーは知能化やスマート化を目指すのであろうか。それらはSDVとどのような関係性を有しているのであろうか。今回は、知能化とスマート化に焦点を当て、中国自動車メーカーの戦略的意図を推定しながら、筆者の考えを述べてみたい。
中国自動車メーカーの知能化およびスマート化
知能化、スマート化という言葉に対して、筆者がまず思い浮かべるのは、若い方はご存じないかもしれないが、1980年代に流行った米国版テレビドラマ「ナイトライダー」である。それに登場した「ドリームカー:ナイト2000」は、AI(人工知能)「K.I.T.T(キット)」が搭載してあり、自分で考えた言葉を話し、自らの意思で走行することもできるスーパーマシンであった。当時、ありえないと思いながらも、でもこのようなクルマがあったらいいなとも思ったものである。
では、中国自動車メーカーはどう知能化やスマート化を実現しているのであろうか。中国で、BEV(バッテリー電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド車)を合わせた販売台数の多い自動車メーカーはBYDであるが、知能化とスマート化に関して先進的といえるのは、新興自動車メーカーであるNIO(蔚来汽車)、Xpeng(小鵬汽車)、Li Auto(理想汽車)であろう。これら3社が搭載している代表的な知能化/スマート化の例を挙げてみたい。
知能化/スマート化に寄与しているとみられる技術
市街地NOAの導入
自動運転レベル4の実現には、依然として一定の時間を要するとの考えが一般的である。このような状況下において、NIOおよびXpengなどは「市街地NOA(Navigation on Autopilot)」と称される先進的な運転支援システムの導入を進めている(図1)。このシステムは、高速道路のみならず市街地まで範囲を拡大したものであり、ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)とADS(Automated Driving Systems:自動運転システム)の中間に位置付けられる技術とされる。
開発の狙いとして、自動運転を全ての道路ではなく、高速道路や人口の多い市街地に焦点を当て、歩行者、自転車、交差点、信号機といった複雑な交通要素に対応可能としている。市街地NOAでは、主に以下の機能を備えているようだ。
- 自動ルートナビゲーション:出発地から目的地まで、市街地の道路を自動で走行
- 信号や交差点での対応:交差点に対して、信号の色を認識して停止/発進を制御
- 歩行者や自転車の検知と回避:歩行者や自転車の不規則な動きに安全に対応
- 自動車線変更や合流:車線変更や合流も自動で判断し、スムーズに実行
- リアルタイム学習と最適化:AIが走行データを学習し、次回以降の運転に反映
技術的観点から見ると、NIOやXpengなどでは極めて高度なAI技術が搭載されている。特に注目すべきは、従来のE2E(エンドツーエンド)自動運転に加え、視覚/言語/行動の3要素を統合的に処理可能なVLA(Vision-Language-Action)アーキテクチャを採用している点である。このアーキテクチャにより、車両は走行中の状況把握にとどまらず、都市部において発生し得る工事の誘導や、交通事故、自然災害といった非定常事象に対しても、視覚情報と言語情報を統合的に「視認」し、「理解」し、適切な「行動」へとつなげる能力を備えているとされる。
このように、市街地NOAは、将来のADSを見据えつつ、中国の複雑な都市交通に対応する過渡的な自動運転技術として実用化を図っていると考えられる。
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