中国自動車メーカーが業界を再定義、位置情報技術大手HEREも驚く開発スピード:自動運転技術(2/2 ページ)
HERE Technologies(HERE)が位置情報プラットフォームの事業展開について説明。会見では、同社でアジア太平洋地域を担当するディオン・ニューマン氏が、中国の自動車メーカーが業界を再定義する勢いで開発のスピードを加速させていることを強調した。
中国の自動車メーカーの勢いに日本の自動車メーカーは対抗できるのか
開発サイクルのスピード感で既存の自動車メーカーと圧倒する中国の自動車メーカーは業界を再定義しつつある。「スピードに加えて、ストラクチャー、マインドセット、ソフトウェアの所有権の考え方、UI/UXへのフォーカス、ユーザーフィードバックと分析、リスク耐性などの観点で中国の自動車メーカーは優位に立っている。特に、ユーザーからのフィードバックの繰り返しを通して積極的に新機能を実装していくスピード感は既存の自動車メーカーにないものだ」(ニューマン氏)。
このような中国の自動車メーカーの勢いに対して日本の自動車メーカーは対抗することはできるのだろうか。ニューマン氏は「欧州から立ち上がった自動車産業は、米国、日本、韓国など時代をけん引する国があり、現在は中国の波が来ているということは確かだ。中国の自動車メーカーの強みは技術イノベーションと併せてリスクを取りに行く姿勢にあるだろう。そのために重視しているのがソフトウェアだが、外部委託を積極的に活用しながら重要なレイヤーは自社でしっかり囲い込んだ上でアジャイルに開発を進めている。日本の自動車メーカーも中国の自動車メーカーの取り組みを学んでおり、新たな時代に適応していこうとしている。日本の自動車産業には強い基礎があるので、われわれのようなパートナーを活用してもらえば、最前線に躍り出ることが可能だろう」と述べている。
ソニー・ホンダモビリティとパイオニアの二輪車向けナビが採用
HEREの日本法人であるHERE Japanは1996年3月の設立であり2026年に30周年を迎える。HERE Japan 代表取締役社長の枝隆志氏は「SDVという観点では中国の自動車メーカーの先を行くのではないか」と述べた上で、ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」の採用事例を紹介した。モビリティの知能化とエンターテインメントの実装を目指すAFEELAは、ソニーが手掛けるセンサーから得た情報に基づくリアルとバーチャルの融合が技術の核心となっているが、HEREはバーチャル部分について同社のソフトウェア開発キット「HERE Navigation SDK」で支えているという。
また、事業の中核である四輪車向けの展開に加えて、二輪車向けナビゲーションでパイオニアと協業を進めている。2024年11月に協業を発表してから約1年で新サービスの開発にこぎつけた。この二輪車向けナビゲーションでは、スマートフォンをベースとしながら二輪車のメータークラスタと省電力のBLEで接続することで長時間利用できるようにしたことを特徴としている。「これまでスマートフォンとメータークラスタをWi-Fiで接続するものはあったが電力消費が大きく数時間しか使えなかった。新サービスはBLE接続で消費電力を20分の1に低減しており、10時間以上利用し続けられる」(枝氏)という。
また、ナビゲーションと連動するADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術に対応する技術開発も進めている。枝氏は「中国の自動車メーカーからの要求を反映しており、このことは日本の顧客にも伝えている」と語る。中国ではナビゲーションを基に自動運転を行うNOA(Navigate on Autopilot)への取り組みが進展しているが、今後はこのNOAの技術を海外に展開していくためにHEREの貢献が求められている。
HEREは、同社の位置情報プラットフォームに接続する世界の4500万台以上の自動車から得られるプローブデータやセンサーデータに公共データや衛星データを組み合わせてデータベースを構築して地図データと融合したユニファイドマップ構想で対応を進める方針だ。この構想では、ナビゲーションやADAS、自動運転など用途に合わせて、1つのリポジトリからデータを切り出して提供することになる。
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