工業製品としてのギターづくりを追求 デジタル設計で進化を続けるギター工房:メカ設計インタビュー(3/3 ページ)
手工品ではなく、工業製品としてのギターづくりを追求するハイエンドミュージック。豊富なギターのリペア経験から得た知見と、独自に考案した木工技法をデジタル設計/製造技術と融合し、オリジナルのエレキギターを製作している。大阪にある工房を訪れ、話を聞いた。
セミオーダーを支えるデジタル設計
Infiniteブランドのエレキギターは、セミオーダー形式が基本である。顧客ごとに異なる仕様に柔軟に対応するため、同社ではブリッジ(弦をボディーに固定し、弦振動をボディーに伝える部品)、ピックアップ(マイク/弦の振動を電気信号に変換してアンプへ送る部品)、ピックガード(ピック操作による傷からボディー表面を守る板状の部品)などの主要パーツを、Fusion上で使えるパーツライブラリとして整備している。
従来、こうしたパーツのレイアウトは、職人が実際のボディー上で物差しを当てながら位置を測り、手作業で穴開け加工を行っていた。わずかなズレが音や弾き心地を左右することも多かったが、3D CAD上で設計することで誤差を最小限に抑えられるようになった。
また、これまで柔軟な位置変更が難しかったブリッジやピックアップの位置を顧客の要望に応じて変更したり、ピックガードの形状を微調整したりといったカスタマイズも、3D CADの画面上で即座にシミュレーションすることが可能だ。
実際に使用する木材の種類も、メイプル、マホガニー、コリーナなど多様であり、Fusionのレンダリング機能を活用することで、色味や木目のイメージを画面上であらかじめ確認できるようになった。これにより、顧客との完成イメージのズレが大幅に減り、製造後の手戻りやトラブルの防止にもつながっているという。
さらなる事業拡大とともに、人材育成や業界活性化も目指す
同社は現在、ギターのリペア/修理事業を継続しながら、セミオーダー(一部フルオーダー)と、近年増加傾向にあるOEM(受託製造)に注力している。
今後はさらなる事業拡大を見据え、設計チームでFusionを扱えるスタッフを増員/育成し、設計の効率化および分散化を進める計画である。チーム体制による設計運用を円滑にするため、Fusionのクラウド環境を活用したデータ共有/管理にも、より一層積極的に取り組んでいく考えだ。
八田氏は「大倉だけでなく、今後は他のメンバーも設計に関わることで新しいアイデアが生まれやすくなり、新モデル(製品)の企画/開発もより活性化すると期待しています」と語る。
近年廃業や高齢化が進むギター製作やリペアの現場において、同社は若手人材の採用や育成にも意欲的である。駅から近くアクセスの良い立地を生かし、リクルート活動を強化していく考えだという。「せっかくギターの製作を学べる学校を卒業しても、残念ながら働き口が圧倒的に少ないという現状があります。そうした若い人たちが活躍できる場を作れるように、業界全体を盛り上げていきたいと考えています」(八田氏)。
同社のギターは、手工品の時代から受け継がれてきた職人のノウハウと、工業製品としての精度を融合させた存在といえる。リペアの現場で培われた豊富な知見をデジタル設計/製造へと昇華させたその挑戦は、ギター業界の活性化につながる原動力になるだろう。
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