片足3分で靴が完成! スプレー製法で実現する次世代シューズ:サステナブル設計
スイス発「On」が画期的なシューズ製造技術「LightSpray」をアジア初公開した。植物由来のフィラメントをスプレーし、縫製不要のシームレスアッパーを3分で成形。片足170gの軽量ランニングシューズを作り上げる。
スイス発のスポーツブランド「On(オン)」は2025年9月12日、スプレー製法でシューズを製造する新技術「LightSpray(ライトスプレー)」を、東京・原宿の期間限定スペース「On Labs Tokyo」でお披露目した。
LightSprayは、ロボットアームが足型を把持し、回転させながら糸状の素材を型表面に吹き付けてアッパー(シューズの甲の部分)を製造する技術だ。縫い目や接着剤を一切用いずにシームレスな構造を実現し、従来30以上のパーツで組み立てていたランニング用シューズを7パーツまで簡素化することに成功した。片足約3分で成形が完成する高速生産と、重量170g(片足)という、軽量化を実現する。
製造工程で吹き付ける素材は植物由来のTPU(熱可塑性ポリウレタンエラストマー)だ。ノズルから吐出されるTPUフィラメントをらせん状に吹き付けて、足型の表面に吸着させる。吸着面にはプラズマを照射し前処理を施した後、熱を加えてソールと接合する。成形が完了したシューズをロボットアームがプリントマシンへ移し、ロゴやカラーを印刷する。最後に人手で取り出して完全に乾燥させれば完成だ。
LightSprayを採用した市販モデル「Cloudboom Strike LS」の価格は税込み4万4000円だ。シューレースも不要で、足にぴったりと密着するフィット感から、着用者からは「第2の皮膚のようだ」と評されたという。
製造方法の簡易化により、従来品に比べてCO2排出量を75%削減できる上、製造工程で生じる廃棄物もほぼゼロに抑えている。工場でなくても、ロボットがあれば世界どこででもシューズを作れるのも特長だ。
アジアで大規模工場を建設中、日常用シューズなど製品拡大も狙う
On Labs Tokyoのメディアデーにおいて共同創業者のオリヴィエ・ベルンハルド氏は、現在のチューリッヒの本社兼工場に加え、アジアで大規模工場を建設中であると明かした。場所の詳細は明かされていないが、「今後アジア拠点の拡大を見据えた一大プロジェクトとなる見込みだ」(ベルンハルド氏)と強調した。
Onは元トライアスロンアスリートのベルンハルド氏 が「より快適で革新的なシューズを」との思いで2010年に創業したブランドである。
LightSprayの発想は、考案者ヨハネス・フォークヒャート氏がグルーガンで作るおもちゃのクモの巣からヒントを得たものだ。2019年のミラノ・デザインフェアで展示されていた「1つの素材から作る靴」がOnの目にとまり、共同開発が始まった。2020年には初のプロトタイプが完成し、多くのロードランナーの協力の下、数百から数千回のテストを経て技術を磨き上げた。
2024年のパリオリンピック時に、パリで初めてLightSprayを披露。34年ぶりに東京で開催された「世界陸上2025」では、男子マラソンに出場したノルウェーのZ.K.メズンギ選手がLightSpray製モデルを着用。男子3000m障害決勝に出場した三浦龍司選手も、Onの別モデルで競技に臨んだ。
発表会後の個別取材に対し、技術ディレクターのパブロ・エラト氏は、製造に使用されるソフトウェアやスプレーのノズルなどはOnの自社開発だと明かした。一方で、「ロボットアームなどは、製造のクオリティーにかかわらないため、外部の製品を使用している」(エラト氏)という。
今後はランニングシューズだけでなく日常使いのスニーカーや他スポーツアイテムへの応用も視野に入れている。現在7件の特許を申請中で、ラインアップ拡大に向けた製造開発が進行中だ。
また、発表会同日には、東京・銀座に日本初の旗艦店「On Flagship Store Tokyo Ginza」がオープンした。オープンを記念して行われたイベント「On Labs Tokyo」(開催期間:2025年9月13〜21日)では、LightSprayの見学ツアーやCloudboom Strike LSを体験できるランニングセッションを実施し、最先端技術を身近に感じられる場を提供していた。
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