ベルギー発の設計者に優しいCFD「AirShaper」のファーストインプレッション:AirShaperとは? その実力を拝見(1)(3/3 ページ)
CFDソフトウェアは設計現場においても徐々に普及しつつあるが、導入コストや操作の難しさから、気軽に扱える環境は依然として限られている。そうした中で登場したのが、クラウドベースのCFD解析サービス「AirShaper」だ。本連載ではその実力と可能性を、実際の使用感とともに検証する。
解析の実行と結果の取得
解析の実行は、[Start Simulation]ボタンをクリックするだけで、クラウド上で計算が開始されます。計算中は進行状況がリアルタイムで表示されるため、「今どの程度進んでいるのか」「あとどれくらいかかるのか」といった不安やストレスを感じることはありませんでした。
計算時間は、モデルの複雑さや設定内容によって異なりますが、数十分から数時間程度で結果が返ってきます。なお、実行前に解析精度としてBasicを選択していた場合、この例ではおよそ30分〜4時間という見込み時間があらかじめ表示されます。ある程度幅はあるものの、事前に目安が分かるのは便利です。
計算が完了すると、ステータス画面で完了を確認できるほか、登録したメールアドレスにも通知が届きます。そこから目的の解析リンクをクリックすれば、すぐに結果が表示されます。
表示される結果は選択した解析オプションによって異なりますが、この例では、圧力分布や流線、さらには抗力や揚力係数などの情報が整理され、ビジュアルで確認できます。Basicレベルの解析では、大まかな情報を得ることが主な目的となるため、どこにどのような力が働いているかを把握するには十分といえるでしょう。
解析を実施した後には、報告が必要になる場面もあるかもしれません。しかし、報告書の作成は何かと手間が掛かるものです。AirShaperでは、その点も配慮されており、ワンクリックでレポートを生成できます。
ポスト処理の画面で出力されるレポートには、結果が網羅的にまとめられているため、そのまま使用することもできますし、これをベースとして自分なりの情報を追加/編集することも可能です。
加えて、解析結果をエクスポートすることも可能です。エクスポートしたデータは、可視化ツールである「ParaView」を使って表示できます。ParaViewは、OpenFOAMユーザーにはおなじみのツールであり、これを利用してポスト処理を行うことが可能です。
そのため、解析結果の表示にこだわりたい人にとっては、非常にありがたい機能といえるでしょう。
まとめ
今回は、ベルギーの企業が提供するAirShaperというSaaS形式のCFDツールについて、その概要を紹介しました。
初期投資なしで、CFDにあまり詳しくない人でもすぐに解析を行えるという点で、非常に現代的で使いやすいツールだといえます。CFDがどのようなものかを簡単に体験するには、手軽に試せる解析ツールとして有効であることは間違いありません。
ただし、AirShaperも他の使いやすい解析ソフトウェアと同様に、設定が非常に簡単であるが故に、あらかじめ用意されたシナリオに沿った解析しか実行できないという制約があります。その点を理解した上で、用途がそのシナリオ内に収まるものであれば、非常に使い勝手の良いツールといえるでしょう。何よりも、初期投資が不要であることは大きな利点です。
この記事の冒頭でも述べた通り、アカウントはすぐに作成でき、即座に解析を始めることが可能です。ただし、もう一つ注意すべき点として、このサービスにはトライアルアカウントが存在しないことが挙げられます。
年間サブスクリプションを購入しなくても、Basicレベルの解析であれば1クレジットで実行できます。1クレジットは50ユーロで換算されており、2025年8月末時点では約8400円に相当します。もちろん、1ジョブ当たりのコストとしては決して高くはありませんが、「内容が全く分からないものに対して課金するのはためらわれる」という方もいるかもしれません。
そうした場合には、「Public Simulation」というオプションを利用する方法があります。これを使って計算すると、解析結果が一般に公開されてしまうため、業務に関わる内容の解析には適しませんが、例題的に使えそうなオブジェクトであれば、試用として十分に活用できるでしょう。その上で使い勝手を確認し、有用と感じれば、個別にクレジットを購入して試すことも可能です。
なお、Public Simulationは一定期間内に1回のみ実行できるようなので、関心のあるモデルを選んで利用することをオススメします。
CFDに興味はあるものの、試すには少しハードルが高いと感じている方は、AirShaperを一度試してみる価値があるかもしれません。 (次回へ続く)
Profile
水野 操(みずの みさお)
1967年生まれ。mfabrica合同会社 社長。ニコラデザイン・アンド・テクノロジー代表取締役。3D-GAN理事。外資系大手PLMベンダーやコンサルティングファームにて3次元CADやCAE、エンタープライズPDMの導入に携わった他、プロダクトマーケティングやビジネスデベロップメントに従事。2004年11月にニコラデザイン・アンド・テクノロジーを起業し、オリジナルブランドの製品を展開。2016年に新たにmfabrica合同会社を設立し、3D CADやCAE、3Dプリンタ関連事業、製品開発、新規事業支援のサービスを積極的に推進している。著書に著書に『絵ときでわかる3次元CADの本』(日刊工業新聞社刊)などがある。
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