シニアにうれしく子どもも乗りたがる、ダイハツが新たな「移動手段」:車両デザイン(2/2 ページ)
ダイハツ工業は歩行領域モビリティ「e-SNEAKER」を発売した。道路交通法では歩行者と同じ扱いになるため、運転免許は不要だ。メーカー希望小売価格は41万8000円。全国の販売店で一斉に発売しており、電動車いすに該当するため非課税で購入できる。年間販売目標は500台だ。
“連れて行ってもらう”というよりも“一緒に行く”
e-SNEAKERは「胸張れる 軽快 安心モビリティ」をコンセプトに、洗練されたスタイリッシュなデザインと乗車姿勢にこだわった。高齢者然としたデザインはシニアに敬遠されるためだ。既存の電動車いすのように低い位置で座るのではなく、自転車とほぼ同じ目線の高さになるようにした。歩行者に埋没せず、広い視界で移動できることで安心感や爽快感が得られるという。
「88歳の母親を万博に連れて行ったが、e-SNEAKERに乗ると(歩いている自分と)目線の高さがほぼ一緒だった。孫と移動するときも、“連れて行ってもらう”というよりも“一緒に行く”という感じがした。最高速度も時速6kmなので、早歩きくらいの範囲で一緒に移動できる」(ダイハツ 社長の井上雅宏氏)。シートの高さは身長や好みに応じて3段階で調整できる。
高い乗車位置だが、フロントの8インチの大径タイヤとサスペンションにより安定性を高め、最大7.5cmの段差や最大幅10cmの溝を乗り越えられる。エアタイヤで乗り心地も高めた。また、四輪でバッテリーを前方に配置することも安定性向上に寄与している。段差や溝には直角に進入することが推奨されているが、多少斜めに進んでも通過できる。きれいに舗装された歩道ばかりではないことも念頭に、走行性能に力を入れた。
走行中の安心安全に関しては、坂道や旋回時に自動的に減速する速度抑制機能を搭載した他、傾斜センサーで上り坂/下り坂や左右の傾きを検知する急斜面検知機能も採用した。後退時はブザーが鳴り、メーターに相当する「状態表示パネル」にメッセージを表示する。シート後方下部にあるブレーキ解除スイッチは、押しながら車両を手動で動かすことができる。
運転操作はスクーターのように右手のアクセルグリップを回すと前進できる。左手にはブレーキレバーがあるが、アクセルグリップを戻すと減速し、停止できる。状態表示パネルには、設定した最高速度やバッテリーの残量が表示される。最高速度は時速1〜6kmの6段階で調整できる。アクセルグリップの回し方でスムーズに加減速するには慣れが必要だが、最高速度を下げれば滑らかに加減速しやすい。
他社の同じジャンルのモビリティではレバー式のアクセルやジョイスティックなどが使われている。e-SNEAKERでもさまざまな操作方法を検討した結果、操作系で目新しさは打ち出さず、スクーター感覚で既存のモビリティに近いものを選んだ。
連続走行距離は約12kmだ(気温20℃、使用者最大体重、満充電のバッテリーで平坦(へいたん)路を時速6kmで連続走行した場合)。バッテリーは取り外し可能なリチウムイオン電池だ。家庭用コンセントを使用して2.5時間で満充電となる。一般的なEV(電気自動車)は走行可能距離のカタログ値と実際の差が小さくないが、e-SNEAKERはカタログ値からさほど減少しないとしている。
駆動用モーターは定格出力250Wが2個となる。後二輪直接駆動方式で、実用登坂角度は10度だ。一般的なショッピングモールの立体駐車場の坂道が約10度だという。車両サイズは全長1130×全幅645×全高985mm、最外側での最小回転半径は1430mmだ。乗車できるのは、身長140〜185cm、体重が荷物も含めて100kg以下に限られる。生活防水仕様だが、スリップの危険があるため雨の日の運転は控えるよう求めている(当然、雪道も運転できない)。傘を差しながら運転することもNGだ。
大阪・関西万博でも人気
大阪・関西万博に提供しているe-SNEAKERは、市販仕様とは若干異なる。さまざまなカラーバリエーションを用意した他、ミリ波レーダーによる障害物検知機能と検知後の減速、バンパー内のエッジセンサーによる接触検知機能と検知後の停止に対応している。混雑による会場内の過密状態を踏まえて安全機能を搭載した。市販仕様では、コスト低減の他、実際の利用環境が万博会場ほどの過密状態ではないことを踏まえてこうした安全機能は省略した。
2025年7月末時点で2万人がe-SNEAKERを利用した。万博会場内を自由に移動する目的で貸し出すだけでなく、コース内や決まったルートを走る体験会も実施している。炎天下でも連日フル稼働だが、不具合やトラブルはなく運用できているという。
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