積水化学がCO2を「空飛ぶ燃料」に変える新製造技術開発で米企業と協業:脱炭素
日本が推進する「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、航空業界の脱炭素化は喫緊の課題だ。そんな中、積水化学工業は、CO2を原料とする新たな合成燃料「e-SAF」の製造技術を確立するため、合成燃料技術のリーディングカンパニーである米Velocysと戦略的提携を結んだ。
積水化学工業(以下、積水化学)と米国のVelocysは2025年8月21日、CO2を原料とした合成燃料(e-SAF:electro-Sustainable Aviation Fuel)の製造技術構築に向けた戦略的提携のため、基本合意書(MoU)を締結したと発表した。
将来はCO2を原料とする高効率なe-SAF製造技術の確立を目指す
政府が推進している2050年のカーボンニュートラル実現に向け、さまざまな産業でCO2排出量の削減が求められている。中でも航空産業は、世界のCO2排出量の約2.6%を占めており、その対策として注目されているのがSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)だ。
国際エネルギー機関(IEA)などによると、航空産業のCO2削減目標の65%はSAFの導入により達成されるべきとされている。現在主流のSAFは、廃油やバイオマス由来の原料から製造されているが、今後のSAF需要の増大を見据えると、CO2と再生可能エネルギー由来の水素から製造されるe-SAFに向けた早期の取り組みと普及も必要だ。
そのような中で、CO2を燃料や化学製品に変換して活用する「CCU(Carbon dioxide Capture Utilization)技術」が注目されている。CCU技術はCO2を有価物資源として再利用し、化石資源を代替することで大気へのCO2排出を抑えられる。
そこで、積水化学はCCU技術の社会実装による世界のCO2排出量削減を目指し、これまでにCO2を高い反応収率(90%以上)で一酸化炭素(CO)に変換する独自のケミカルルーピング技術の開発を進めてきた。
一方、Velocysは、都市ごみや産業廃棄物、バイオマス、あるいはCO2から変換される合成ガス(COと水素の混合ガス)を原料として合成燃料を製造するFT反応技術の開発を20年以上にわたり進めてきた。同技術では、Velocys独自の触媒と設計のマイクロチャネル反応器を利用することで、従来のFT反応技術と比べて6〜10倍の高い生産性を確立している。
今回の提携では、積水化学のケミカルルーピング技術と、VelocysのFT反応技術を組み合わせ、新しいe-SAF製造技術の構築を目指す。将来は、CO2を原料とする高効率なe-SAF製造技術を確立する。
両社のこれまでの成果
積水化学では、製鉄所の排ガスを用いて、ケミカルルーピング技術の小規模実証(1kg-CO2/日)を実施し、累計6カ月の運転に成功している。現在は10t-CO2/日規模の実証に向けた調査事業「脱炭素化・エネルギー転換に資する我が国技術の国際実証事業(実証前調査)」を行っている。
Velocysは、20年以上にわたりマイクロチャネル反応器を用いるFT反応技術の研究/開発を継続している。最大250バレル/日規模の設備でFT反応技術により、6000時間以上の連続運転を行った実績がある。国内では、Velocysの基本技術が使用されたバイオマス由来のSAF製造プロジェクトにおいて、国際規格に適合するSAFの製造と商用フライトへの給油を実現している。現在は1500バレル/日以上の商業規模に向け、複数のプロジェクトを推進中だ。
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