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万博で展示される培養肉とは? 3Dプリンタで牛ステーキ肉を作る理由3Dプリンタの可能性を探る(2/3 ページ)

大阪・関西万博で培養牛肉やフードプリンタのコンセプトモデルを展示する培養肉未来創造コンソーシアムの代表で、大阪大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 教授の松崎典弥氏に、培養肉が注目される背景や、さまざまな食用肉の中から牛肉を選んだ理由、コンソーシアムが目指す方向などについて聞いた。

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かさぶた成分で形状をキープ

――3Dプリンタの工程を詳しく教えていただけますか。

松崎氏 3Dプリンタ(図4)は、同時に24本(最大48本まで)のノズルから、直径1mm、長さ2cmのファイバー形状を1分半で出力できます。100本のファイバーを5分以内に出力可能であり、ファイバーが100本あれば、1.5cm角、高さ2cm程度の培養肉を作ることができます。例えば、2021年に「Nature Communications」に掲載されたわれわれの培養牛肉は、実際の霜降り肉の組成を参考にして、筋肉42本、脂肪28本、血管2本の合計72本を使って作りました。

左上のヘッドにチップ(出力ノズル)を48本付けられる。左の黄色い容器内にノズルが入っている。真ん中の茶色い枠の部分にインク、右の枠の部分にサポートバスのジェルの入ったカセットを配置する
図4 左上のヘッドにチップ(出力ノズル)を48本付けられる。左の黄色い容器内にノズルが入っている。真ん中の茶色い枠の部分にインク、右の枠の部分にサポートバスのジェルの入ったカセットを配置する[クリックで拡大]

松崎氏 出力されたファイバーは、灌流培養装置によって自動で培養されます(図5)。細胞を含むインクは液体ですが、チキソトロピー性(力を加えると液状になり、刺激を与えない状態では固体のように振る舞う性質)を持つサポートバス中に出力されるため、ファイバーの形状を保つことができます。

分化誘導を行う培養装置
図5 分化誘導を行う培養装置。赤い液体が培養液。96本ファイバーの入ったカセットを最大9つ並べられるため約1000本を同時に培養できる[クリックで拡大]

松崎氏 細胞同士だけでは接着して形状が固まるまでに時間がかかるため、このインク中には、かさぶたを作るのと同じ成分(フィブリン)が含まれています。その反応により、ファイバーの周囲に約1時間で“殻”が作られます。その後、37℃まで温度を上げてゼラチン製のサポートバスを溶かし、培養液に置き換えて灌流培養を実施します。

――立体形状を作るために、さまざまな工夫がなされているのですね。線維は2次元といえそうですが、3次元の出力は検討していますか。

松崎氏 3Dプリンタであれば立体的な形状を作ることは可能ですが、われわれの目的は線維を持った本物に近い肉を作ることなので、ファイバー形状の出力に使用しています。文字や絵を描きたい場合は、ファイバーの断面でドット絵として表現できます。

――ファイバーから塊肉への成形は、どのように行っていますか。

松崎氏 当初は人の手で行っていました。繊維同士をくっつけるには、レストランなどで肉の成形に使用される食品添加物のトランスグルタミナーゼ粉末による化学的結合を利用します。現在はロボットアームを使用しており、人の手だと慣れても2時間かかっていた作業が、数分でできるようになりました。

 現在はプリンタ、培養装置、束ねる装置が別々にありますが、それらを1つにまとめてコンパクトにした装置が、万博で展示しているコンセプトモデル「ミートメーカー」です(図6)。

パビリオンに展示中のコンセプトモデル「ミートメーカー」
図6 パビリオンに展示中のコンセプトモデル「ミートメーカー」。左は3Dプリンタで出力して分化誘導を行う装置で、上部に脂肪成分、牛細胞液、豚細胞液などのバイオインクのタンクが並んでいる。出力後10時間待つと塊肉が完成するようだ。右の箱には家族の好みや体調に合わせて成分や形を変えて作ったホールカット肉が貯蔵されている[クリックで拡大]

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