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量子化学技術で素材開発の「壁」を壊す! 新プラットフォームでリードタイム短縮マテリアルズインフォマティクス

新しい薬や素材の開発に欠かせない分子設計。この分野で期待される量子コンピュータの活用は、コストや人材の課題からまだ普及が進んでいない。そんな中、三井物産、Quantinuum、QSimulateの3社は、これらの課題を解決する新たな量子古典ハイブリッドプラットフォーム「QIDO」の提供を開始した。

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 三井物産、Quantinuum、米国に本社を構えるQSimulateの3社は2025年8月19日、新薬や新素材の開発を加速させるための量子古典ハイブリッドプラットフォーム「QIDO(キド、Quantum-Integrated Discovery Orchestrator)」を同日に提供開始すると発表した。

オープンソースのソフトウェアと比較して最大10倍の精度向上

 創薬、材料、化学の分野において、量子コンピュータは分子設計の精度向上で役立つ技術として期待されている。しかし、技術の成熟度、人材不足、導入コストなどの課題が存在し、多くの企業ではまだ技術評価や導入可能性の検討段階にある。材料開発におけるデジタル技術活用は単純なデータ処理ではなく、量子力学的なミクロスケールの現象とマクロスケールの製品性能をつなぐ複雑なプロセスが求められる。そのため、最先端の計算化学、量子コンピューティング、AI(人工知能)の技術を研究開発に取り入れ、仮想環境で材料特性や化学反応を再現/解析することで、競争優位性を得られる。

QIDOのイメージ
QIDOのイメージ[クリックで拡大] 出所:三井物産

 QIDOは、これらの分野において、材料設計や反応解析の精度と効率を高めることで、研究開発のリードタイム短縮とコスト削減を支援するための新しいソリューションだ。このプラットフォームは、QSimulateの反応解析プラットフォーム「QSP Reaction」とQuantinuumの量子コンピューティングソフトウェア「InQuanto」を統合している。

 QSP Reactionは数千原子規模の計算を可能にする最高精度の古典量子化学手法を備えている。InQuantoは、量子エミュレータとQuantinuumの量子コンピュータ「Quantinuum Systems」へのインタフェースを提供するソフトウェアだ。複雑な分子や材料のシミュレーションにおいて、オープンソースのソフトウェアと比較して最大10倍の精度向上を実現する。

 今回のプラットフォームでは、QSP Reactionで高精度な化学反応解析を行い、その結果をInQuantoに適用することで、量子計算の活用を効率化し、従来は専門知識が必要だった量子化学技術を、より多くの研究現場で活用できるようにする。直感的なユーザーインタフェースと自動化された解析機能により、研究者は最適な手法を選び、効率的に研究を進められる。さらに、クラウド環境を活用することで、さまざまな研究テーマに対する試験的な解析を迅速かつ柔軟に実施できる環境を提供する。これにより、企業や研究機関は量子技術の実装に向けた取り組みを効率的に進められる。

 また、指定した反応物と生成物から、反応座標と遷移状態を自動的に特定できる他、量子エンベディングと自動化された活性空間選択技術により、複雑なシステムを効率的に計算可能だ。精度とコストのバランスを考慮した、カスタマイズ可能な計算手法にも対応。量子コンピュータおよびエミュレータを用いて、適切なエネルギーの計算も行える。量子回路を可視化し、必要な量子リソースも報告できる。

 用途としては、化学反応の経路探索や励起状態計算をはじめ、創薬、触媒/酵素の設計、反応機構の解明、持続可能な材料、エネルギー技術の開発などを想定している。

 触媒/酵素の設計では、高効率な触媒や酵素の設計をサポートし、クリーンエネルギーや環境配慮型の製造を後押しする。反応機構の解明では、複雑な化学反応経路の理解に寄与し、材料の安定性や性能向上に貢献。電池材料の性能向上を通じて、電子の安全性や寿命のアップ、大容量化を支援する。持続可能な材料とエネルギーの開発では、省エネ材料の開発や、CO2の回収/再利用、グリーンアンモニア/水素の製造をサポートする。

 今後、三井物産、Quantinuum、QSimulateの3社は、電池技術やバイオ分野への応用も視野に入れ、顧客との協創を通じて、QIDOで各分野に特化した機能を順次拡張する予定だ。

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