「ギガキャスト」が騒がれる理由:いまさら聞けないギガキャスト入門(1)(3/5 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第1回は、ギガキャストがこれほどに騒がれる理由について紹介した後、ギガキャストのメリットやデメリット、ギガキャストとメガキャストの違いなどについて説明する。
2.そもそもギガキャストとは何か
ギガキャスト(Giga cast)は、正式にはギガキャスティング(Giga casting)と言い、自動車の車体構造など部品を、超大型のダイカストマシン(die casting machine、鋳造機)によって一体成形する技術である。1ページ目の「1.はじめに」で述べたように、部品点数の削減や作業工程の大幅な効率化を図ることができる。
超大型のダイカストマシンとは、マシン(ここでは鋳造機)自体が極めて大きく、金型の型締め力も大きなダイカストマシンのことである。ダイカストマシンとはダイカスト(die casting、鋳造)を行う成形機械、つまり鋳造機である。ダイカスト、ダイカストマシンなどの詳細については次回に解説する。なお、従来のダイカストマシンは、最も高い圧力を創出する機械でも約4000tf(トンフォース、1tf=1kN(キロニュートン)/9.8)が上限とされていた。
ギガキャストの実用化を目指していたテスラは、より大型で高圧の鋳造機を開発してくれる企業を求め、日本を含めて世界中を探し回ったとされる。その結果、開発に踏み切って実現したのはイタリアのIDRA(イドラ)であった。
IDRAのギガキャストマシンは、図4に示すように、全長19.5m、全幅5.9m、全高5.3m、重量410〜430トンに達する超大型ダイカストマシンである。溶かした金属合金を金型内に圧入/充填(じゅうてん)し、6000tfの型締め力(クランプ圧と呼ぶ)、つまり約58.8MN(メガニュートン)以上の高い圧力をかけることで製品を精密に一体成形できる。
テスラは、図1に示したように、このIDRAのギガキャストマシンをモデルYのリアアンダーボディーの量産試作開発に世界で初めて適用し一体成形に成功した。こうした大型高圧の鋳造機は「ギガプレス(Giga Press)」とも呼ばれている。現在は、UBEマシナリーがギガプレスを開発するなど、日本国内でも自動車メーカーや自動車部品サプライヤーが共同してギガキャストの量産投入に向けた取り組みを進めている。
ギガキャストマシンもまた、より大型で高圧力なものが求められる傾向にある。既に型締め力で1万5000tfといった超高圧力の実現を求めるニーズも出てきているが、そのための装置開発には技術的な高いハードルを超えなければならない。
このように、ギガキャストは、大型のアルミニウム合金、マグネシウム合金などの金属部品を一体成形する鋳造技術、方法を指す。従って、自動車業界では、車体のアンダーボディー各部を構成する大型部品※3)を、従来の複数部品の組み合わせではなく、一体成形することにより製造工程の効率化やコスト削減を目指す技術として注目されたわけである。
※3)アンダーボディーは、クルマの走行性能、安全性、快適性に大きく影響する重要な部分である。その各部を構成する大型部品には以下のようなものがある。
フロアパン:クルマの床面を構成する部分で、乗員の足元となる部分
サイドシル:ドア下の車体側面部分で、強度部材としてサイドからの衝撃を吸収する役割を持つ
フロントフレーム:車体前部の骨格を構成し、エンジンやサスペンションを支える
リアフレーム:車体後部の骨格を構成し、トランクやサスペンションを支える
クロスメンバー:車体左右をつなぐ補強部材で、車体のねじれ剛性を高める
エンジンアンダーカバー:エンジンルームの底面を覆い、異物からエンジンを保護し、空力特性を向上させる
トランスミッショントンネル:トランスミッションを覆う部分で、強度部材としての役割も果たす
クラッシュボックス:衝突時に衝撃を吸収し、乗員を保護する
ショックタワー:サスペンションを支え、ショックアブソーバーを装着する部分
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