「ギガキャスト」が騒がれる理由:いまさら聞けないギガキャスト入門(1)(2/5 ページ)
自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第1回は、ギガキャストがこれほどに騒がれる理由について紹介した後、ギガキャストのメリットやデメリット、ギガキャストとメガキャストの違いなどについて説明する。
ギガキャストの採用によって得られる効果
図2に、ボディーを構成する主要な骨格部位の部品を示す。
自動車の車体部位を大まかに分けると、図2中の(1)〜(5)と(10)(11)のフロント、(6)〜(8)と(12)のセンター、(9)(13)(14)のリアから構成されている。
図2の右側にある(8)〜(14)までの部品で構成される車体部位は、車体の底部分に用いられることからアンダーボディーと呼ばれる。アンダーボディーは、クルマの構造上、一番の基礎となる部分であり、走行機能や安全性能のために一定の強度、剛性、耐久性が求められる。そのために、(10)〜(14)のようなメンバー※1)という強度部材が加えられたり、補強材が当てられたりする。
※1)メンバーとは強度部材のことを指す。メンバーやサイドメンバー、クロスメンバーなどの種類があるが、はっきりとした分類法はない。モノコック構造(シャシーフレームを車のボディーに取り込んだ一体構造のこと)では、一部分の大荷重は補強部材のサイドメンバー/クロスメンバーで受け、インナーパネル/アウターパネルがその荷重を分散させる。安くて強い材料が適している。ちなみに、クロスメンバーとは、車体の剛性や強度を向上させるために使われている部材で、自動車に対して横方向に設けられている。他にも、フロアを強化するフロアクロスメンバーや、前部に設置されているフロントクロスメンバーなどがある。また、シャシーフレームとは、主にトラックの荷台下部に装備された支持パーツのことで、一般的にはクルマの骨格を構成する機構で、シャシーまたはフレームと呼称される場合が多い。シャシーフレームは、荷台の全ての重量を支える重要な部位となっている。
これらのボディーを構成する複数の部品を一体成形するギガキャストの採用によって、以下のような効果が得られると考えられる。
- 図2に示したように。従来の自動車ボディー関係の部品点数は数十〜数百点必要だったのに対し、わずか3点(フロント、センター、リア)で済んでしまう。「極端な部品の削減」が可能になる。そして、その部品が、大きく一体的に成形加工されているので、複数の複雑な工程を削減できる
- 「製造コストの大幅な低減」が実現される
- 製造部門の加工のみならず、部品点数の削減によって、クルマをつくるための工程、例えば、組み立て工程や関連設備の工程なども削減でき、これまで考えられないようなコスト削減が可能になる
- 自動車の主材料は鉄だが、ギガキャストに用いられる材料であるアルミニウムの比重は鉄の約3分の1であり、これによってクルマを軽量化できて燃費も良くなる:
- 「アルミニウムは軽いが強度が低い」と否定的な技術者もいるが、強度が比較的高い新しいアルミニウム合金でこの問題を解決できる。軽量化に加えて、新しい一体的成形によって、複数部品で構成する際に必須の接合部が減少し、強度の向上につなげられるようになる
- 進化が著しいシミュレーション技術を一体成形に適用すれば、一体成形ならではの複雑な形状の部品を設計できる。より自由度が高くフレキシブル性に富んだ設計が可能になる
- クルマづくりの根本的な発想の転換ができる。これは、将来展望にもつながる話である。将来のギガキャストでは、先述したフロント、センター、リアの3つのモジュール※2)に分けてそれぞれを一体成形できるので、クルマづくりに関する根本的な発想の転換、ここではモジュール生産の進化ができるようになる。ここまで述べてきた各項目と連携したダイナミックな展開も可能となる
- そして、自動車の将来展望も大きく変わってくる
※2)モジュール(module)とは、システムや製品を構成する独立した機能単位のこと。ソフトウェアやハードウェアにおいて、特定の機能を持つ部品や要素を指す。モジュール化は、複雑なシステムを分割し、開発や保守を効率化する手法。工業製品におけるモジュールは、規格化された交換可能な部品を指す。また、モジュール生産は、モジュールを組み立てて製品を作る生産方法のことである。
トヨタも取り組みを進めるギガキャスト
トヨタ自動車は図3に示すように、将来的にはボディー(車体)を新モジュール構造として捉え、創意工夫による高速かつ高度な生産の実現を目指している。
新しいモジュール構造は、フロント部/センター部/リア部に3分割できる。ギガキャストの採用による大幅な部品統合は、車両開発費や工場投資の削減に貢献する。さらに、自走式の生産ラインを組み合わせて工程と工場への投資を半減する方針だ。
なお、センター部は、EVの場合は主にバッテリー部分となるため、3Dプリンタなどで作ることが想定されている。そして、フロント部とリア部をギガキャストで作る手法が今後検討されるようだ。
このように、ギガキャストなどを用いて開発費の半減、工場投資の半減をもくろんでいるが、さらに圧倒的な開発のスピードも得ることができる。企画から意匠デザイン、試作、量産設計、製造、アセンブリ、完成、納車までのリードタイムを削減し、顧客志向に即対応したクルマづくりの新体制が可能となり、世界市場を席巻できるようになる。
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