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「ギガキャスト」が騒がれる理由いまさら聞けないギガキャスト入門(1)(4/5 ページ)

自動車の車体を一体成形する技術である「ギガキャスト」ついて解説する本連載。第1回は、ギガキャストがこれほどに騒がれる理由について紹介した後、ギガキャストのメリットやデメリット、ギガキャストとメガキャストの違いなどについて説明する。

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3.ギガキャストのメリット

 あらためてギガキャストのメリットを挙げてみよう。2ページ目の「ギガキャストの採用によって得られる効果」よりも詳細に分解してみた。

  1. 部品点数の削減:従来、数十〜数百点必要だった複数の部品を組み合わせていたものを、一体成形することで部品点数を大幅に減らすことができる
  2. 工程数の削減:部品点数の削減に伴い、溶接や組み立てなどの工程数も減らすことができ、生産効率が向上する
  3. 製造スペースの削減:工程数が減るので、製造するためのスペースが少なくなる
  4. 製造コストの低減:部品点数の削減に加え、組み立て工程の数や関連設備、金型数、溶接材の使用量なども削減できるため、コスト削減につながる
  5. 生産管理の削減:多くの内製工程および仕入先を持つ必要がなくなるので、生産管理がしやすくなる
  6. 品質保証の向上:品質保証を一つの部品に注力できる。ただし、十全に機能を検証しなければならない
  7. 軽量化:アルミニウム合金やマグネシウム合金などの材料を使用することで、部品の軽量化が図れる
  8. 高強度化(強度向上):一体成形によって、部品間の接合部が減少し、強度向上につながる。溶接による接合部がなくなるため、応力集中が減少し、部品全体の強度を向上させることができる
  9. 生産性/生産効率の向上:一体成形によって、部品点数と組み立て工程の削減ができ、生産効率が向上する。生産工程が短縮され、生産性が向上する
  10. 設計自由度の向上:一体成形ならではの複雑な形状の部品を設計できる。CAE、シミュレーション解析技術を使って最適設計などが可能となる
  11. サプライチェーンの効率化:部品点数と工程数が減ることで、サプライチェーン全体の効率化に貢献する
  12. 柔軟な生産体制:従来の生産ラインに比べて、柔軟な生産体制を構築できる
  13. 顧客/投資家へのアピール:顧客/投資家に導入効果を分かりやすくアピールできる
  14. EVのコスト削減:EVのコストの多くを占めるバッテリーケースや車体構造部品を一体成形することでコスト削減に貢献する
  15. エネルギー効率の改善:車両の軽量化は、走行距離の向上やエネルギー効率の改善につながる
  16. 3DプリンタやAI(人工知能)技術との融合によるビジネスモデル変革の活性化:ギガキャストの出現で、ビジネスモデルの変革の活性化が求められる。つまり、今後ますます、ギガキャストの技術はさらに進化し、3DプリンタやAI技術との融合が進むと考えられる

 ギガキャストの使い手である自動車メーカーの側でも、強度、剛性、重量、生産性などの要求を満たしながら、超大型部品を高品質に生産するための設計、生産、品質保証などの技術を同時に確立していく必要があり、次世代の生産モデルが構築されることが期待される。

 例えばテスラでは、3Dプリンタを使ったギガキャスト向け金型の試作を迅速化する技術などを確立し、利用技術の蓄積を進めている。また、AIによる品質管理システムが導入されることで、不良品の発生を最小限に抑え、安定した生産が可能になる。

 ギガキャストは、特にEVの製造において、車体構造の軽量化、高強度化、コスト削減に貢献する技術として注目されている。

4.ギガキャストのデメリット

 ただし、ギガキャストの導入はメリットばかりではない。以下に挙げるように、一定程度のデメリットも想定される。

  1. 初期投資の負担:大型鋳造機の導入には、多額の初期投資が必要である。また、耐久性の高い金型を導入する必要がある。これには数十億円規模の投資が必要となる
    • トヨタ自動車、ホンダ、フォルクスワーゲンなどの大手自動車メーカーは、自社でギガキャスト設備を運用できる体制を整えているが、より規模の小さい自動車メーカーにとっては導入ハードルが非常に高いのが実情。コンソーシアムや協会団体の設立よる支援などの対策が必要だ
  2. 設計自由度などの技術的な制約:一体成形のため、設計の自由度が制限される場合がある。アルミニウム合金などの成形特性や成形形状や精度の限界といった技術的な制約も考える必要がある
    • トヨタ自動車はこの問題に対処するため、デジタル技術のCAE/シミュレーション解析を活用した高度な設計技術を導入し、冷却収縮の影響を最小限に抑える取り組みを進めている。また、金型の耐久性向上や高精度な成形を実現するためのプロセス最適化も必要不可欠である
  3. 成形中の冷却時間:大型部品の鋳造は冷却に時間がかかり、生産サイクルが長くなる可能性がある。上記と同様に、アルミニウム合金などの成形特性や成形形状や精度の限界といった技術的な制約も考える必要がある
  4. 鉄鋼業界への打撃:材料が鉄板からアルミニウム合金などに代替されるので、鉄鋼業界への部品発注、需要が低下し、鉄鋼業界が新たなビジネスモデルへの適応が求められる可能性がある
  5. 部品メーカー(サプライヤー)への打撃:上記と同様に、従来のサプライヤーへの部品発注、需要が低下し、サプライヤーは新たなビジネスモデルへの適応が求められる。また、ギガキャストは、自動車メーカーを中心に世界的に導入が進んでいるが、中国や韓国の企業が積極的にこの分野に参入して技術競争が激化しており、特に日本企業の今後の対応が重要になるとみられる

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