無線とロボットによる省力化稲作を実証、米生産の4割を担う中山間農地の維持へ:スマートアグリ(2/2 ページ)
IIJとテムザック、パルシベイト、コヤワタオフィスの4社は、耕作放棄地化が急速に進む中山間地にある条件不利農地において、無線やロボットなどの技術を用いた省力化稲作支援サービスを構築する実証プロジェクトを2025年6月に開始したと発表した。
実証プロジェクトにより「中山間農業に関わる人を増やす」
今回の実証プロジェクトは、「省力化稲作」「作業マッチング」「農法の拡大」を組み合わせることで省力化稲作支援サービスの実現につなげることが目標となる。
まず省力化稲作では、テムザックが延岡市でのロボット稲作で実証してきた雑草抑制ロボット「雷鳥1号」などの成果を基に開発した収穫ロボットやマルチユースロボットを米収穫時期である2025年10月に発表し、実証実験を行う。収穫ロボットについては、今回の実証プロジェクトで実施する農法である再生二期作や陸稲に対応可能で、軽トラで運搬可能な重量やサイズとする方針だ。マルチユースロボットは、さまざまな農作業に対応する機能を1台で実現できることを目指すが、当初は鳥獣害対策と部分的な除草の機能を組み込む予定である。
これらのロボットはテムザック本社(京都市上京区)内に置く集中管制センターで運用する。StarlinkやWi-Fi HaLowなどの先進無線通信技術を用いて現地からリアルタイムで取得する映像データを基にAIがリスクを発見し、集中管制センターのオペレーターはそのリスク対応を優先することで少人数での圃場管理を可能にする。集中管制センターや先進無線ネットワークの構築はパルシベイトが担当する。
省力化稲作支援サービスの実現に向けて重要な役割を果たすのが作業マッチングだ。今回の実証プロジェクトは、あくまで稲作の省力化であり、ロボットを活用しても半自動化までが可能であり、完全自動化は見据えていない。つまり、現地でのロボット管理をはじめ農作業を担う人が必要になる。そこで作業マッチングでは、延岡市における農林業と新しい人材をつなぐマッチングサイトである「のべワーカー」と連携し、近隣市民に農作業を手伝ってもらう枠組みを構築する。この作業マッチングのスマートフォンアプリの開発はパルシベイトが担当する。
農法の拡大では、一般的な水田での稲作ではなく、再生二期作による年間2回収穫による収量増、陸稲の生育が可能な畑地を使った面積増に取り組む。再生二期作では、地面から約50cmの高さで稲を刈り取る高刈りを行い、残った切り株から芽が出るひこばえを育てて2回目の収穫を行う。先述した収穫ロボットは、この高刈りやひこばえ収穫に対応できるように開発する。併せて、畑地でも稼働できる収穫ロボットも開発する。
実証フィールドの広さは、圃場の数は延岡市が6枚(1枚当たりの面積は1反=10a)、福岡県福岡市の九州大学試験農場が1枚、神奈川県秦野市三廻部地区が1枚となっている。京都市の集中管制センターでは、これら遠隔地の圃場におけるロボットや農作業の管理を行う。
瀬戸口氏は「今回の実証プロジェクトでは、中山間農業に関わる人を増やせる枠組みを作りたい。実証フィールドの広さだけで見れば、少ない人数の専業農家で稲作を行えるだろう。しかし、今後必要なのは地域の関係人口で維持できるように農作業を効率化して、新たに農業を始めたい人に取り組みやすくし、近隣住民が簡単に手伝えるようにすることだ」と述べている。
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