FDKは2025年7月17日、水素貯蔵タンク用の新材料として「高容量AB2型水素吸蔵合金」を開発したと発表した。
「水素貯蔵量の少なさ」や「活性化の複雑さ」を解消
現在、水素電池用途で主流となっているAB5型水素吸蔵合金は、水素を効率的に吸蔵/放出させるために行う活性化の容易性や反応速度の速さ、リサイクル性に優れる。しかし、重量当たりの水素貯蔵量が少ないため、より多くの貯蔵量が求められるタンク用途には適していない。現在、水素貯蔵量が多い水素吸蔵合金は市販されているが、使用中に水素放出圧力が大きく低下するものや、活性化プロセスが複雑なものなど、使い勝手に問題があるものが多数存在する。
そこで、FDKは水素貯蔵タンク用として使い勝手が良い高容量AB2型水素吸蔵合金を開発した。高容量AB2型水素吸蔵合金は、水素貯蔵量の体積効率が液体水素の約2倍で、高圧水素ガスの約7倍となっている他、AB5型水素吸蔵合金と比べ重量当たりの水素貯蔵量を約20%向上している。安定性に優れた水素放出圧力も実現しており、使い勝手に配慮した活性化プロセスにも応じる。さらに、日本の高圧ガス保安法適用外となる1MPa未満の低平衡圧仕様と、海外向けの1MPa以上の高平衡圧仕様に対応する。
これらの特徴により、「水素貯蔵量の少なさ」や「活性化の複雑さ」といった問題を解消できるため、水素ステーション向け、燃料電池向けなどさまざまな水素貯蔵タンクに使える。
FDKは、一部需要家を対象に高容量AB2型水素吸蔵合金のサンプル提供を2025年7月に開始し、同年10月以降に量産出荷を行う予定だ。
ニッケル水素電池の製造でも水素吸蔵合金を採用
同社は、セキュリティ、車載、医療、家電などさまざまな用途向けに、幅広い温度範囲に対応し、充電して繰り返し使え、リサイクル性と安全性が高いニッケル水素電池を製造/販売している。
このニッケル水素電池の負極に採用されている水素吸蔵合金は、一定量の水素を貯蔵する体積が、液体水素に比べ約2分の1で、高圧水素ガスに比べ約7分の1と体積効率が高い。また、常温常圧に近い状態で水素を安定して貯蔵できる。
2024年には、水素吸蔵合金の開発/製造を行う中国の包頭富士電気化学(BAOTOU FDK)がグループ会社として加わり、長年培ってきた電池用水素吸蔵合金の技術開発力をベースに、水素貯蔵タンク用水素吸蔵合金の開発を進めてきた。
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