メモリ動作の低電圧化や消費電力の削減に貢献する新たな強誘電体窒化物:研究開発の最前線
東京科学大学は、窒化アルミニウムと窒化ガリウムを合金化し、結晶にスカンジウムを従来より多く取り入れた膜を作製できることを発見した。
東京科学大学は2025年6月23日、窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を合金化することで、結晶にスカンジウム(Sc)を従来より多く取り入れた膜を作製したと発表した。Scをより多く取り入れることで、メモリ動作の低電圧化や消費電力の大幅な削減を達成できる。
研究グループは、2種類の元素を混合すると元素の取り込み量が増えるエントロピー効果を窒化物材料に応用できないかと考えた。AlNのアルミニウム(Al)について、約10〜30%をGaに置き換えたところ、結晶に取り入れられるScの量を40%から約50%に増やすことに成功した。
加えて、Scの量を増やすことで、比誘電率が大きくなることを確認。約40まで増加できることが分かった。電圧を印加すると結晶が延びる圧電性は、比誘電率と相関関係があるため、圧電性の増加も期待できる。
また、Scが多く入った領域は高い絶縁性を有し、強誘電性を持つことも確認できた。より多くScを結晶に取り入れた組成は、GaNと比べて絶縁性の高いAlNを多く含むことが要因だという。
さらに詳しく検討した結果、メモリの保持データを決める残留分極値は結晶構造のひずみであるuパラメーターに依存すること、電極を反転させる電圧はAlとGaの割合によらずScの含有量で決まることも明らかにした。
AlNやGaNは、強誘電性や電源を切ってもデータを保持できる不揮発性を備え、超低消費電力で高速動作する強誘電体メモリへ応用できる可能性がある。特に、強誘電体トンネルジャンクションと呼ばれる新たなメモリを実現できれば、理論上は1万倍以上のオン―オフ比が可能になる。また、高い圧電性と電気光学効果により、6G用スマートフォンなどの高周波ノイズフィルターや光コンピュータへの応用も期待できる。
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