約100nmの球状多空間ポリマーの水溶化に成功 空間ポリマーで大量の分子を捕捉:研究開発の最前線
東京科学大学は、約100nmサイズの球状多空間ポリマーを芳香環ミセルで内包し、水溶化することに成功した。この技術により、水溶化された多空間ポリマーで大量の分子を捕捉できるようになった。
東京科学大学は2025年6月24日、約100nmサイズの球状多空間ポリマーを芳香環ミセルで内包し、水溶化することに成功したと発表した。この技術により、水溶化された多空間ポリマーで大量の分子を捕捉できるようになった。

a)芳香環ミセル(AA)nによる球状多空間ポリマーPBPの内包と水溶化の方法。内包ポリマー(AA)n・PBPのb)DLSデータ、c)FE-SEMの画像とd)その粒径分析、e)内包前後の吸収バンド、f)分子モデリング図(部分構造)[クリックで拡大] 出所:東京科学大学
研究グループは、約100nmサイズの球状多空間ポリマーと、芳香環ミセルの部品となる湾曲型両親媒性分子を作製した。これらを固液中で混合すると、芳香環ミセルによるカプセル化で多空間ポリマーを効率的に水溶化できた。溶解した内包ポリマーは遠心分離により、サイズごとに分離可能だ。
この内包ポリマーは、水中において高い分子捕捉能を示す。水中で撹拌(かくはん)したところ、大量のアルカン(飽和炭化水素)を捕捉し、ポリマー骨格由来の発光が向上した。さらに、色素分子とアルカンを同空間で捕捉し、色素に由来する強発光の誘起にも成功した。

a)内包された多空間ポリマー(PBS)n・PBPによる水中でのDecの捕捉。 b、c)捕捉前後の1H NMRスペクトル、d)(PBS)n・PBPのDecとcDecの捕捉前後の蛍光スペクトルとe)それらの量子収率[クリックで拡大] 出所:東京科学大学
また、両親媒性分子「AA」と「PBS」を用いて、水溶化の効率を比較した結果、湾曲型両親媒性分子のPBSを用いた場合、AAよりも高い効果を示した。一方、既報のアルキル鎖からなるひも状両親媒性分子では、その効率は7分の1以下だった。これらは、ミセルと多空間ポリマーの芳香環同士の分子間相互作用が重要であることを示している。
内包による可溶化により、球状多空間ポリマーのサイズ分離が可能になった。また、高速遠心分離とろ過により、平均粒子径を制御できるようになった。この簡便な操作で、不溶の固体材料の粒子径だけでなく、サイズのばらつきも制御できる。
この内包ポリマーの芳香環多空間では、水中でアルカン「Dec」や色素分子「DCM」を大量に捕捉できる。捕捉したアルカンDecの量は、純水中のDecの溶解量と比べて1万6000倍以上に増加した。また、色素分子DCMとアルカン「cDec」を同時に捕捉することで、色素由来の蛍光性が8倍以上に増加した。

a)色素分子を捕捉した3成分複合体(PBS)n・PBP・(DCM)mの形成と内包された多空間ポリマーによるcDecの捕捉による4成分複合体の構築。 3成分複合体のb)可視バンドとc)蛍光バンド[クリックで拡大] 出所:東京科学大学
クラウンエーテルやシクロデキストリンなど、1つの内部空間を持つ化合物は分子を捕捉する性質が知られている。一方、多数の空間を持つ固体材料の捕捉能についても注目されてきたが、まだ明らかになっていない部分が多い。特に、芳香環骨格からなる多空間ポリマーは安定性に優れたガス吸着、分離材料として研究されてきたが、溶媒に溶けないため、固体でしか活用されてこなかった。
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