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「経験値大国」日本 〜SoIだからできる日本の経験値の活用〜AIとデータ基盤で実現する製造業変革論(3)(2/2 ページ)

本連載では、製造業の競争力の維持/強化に欠かせないPLMに焦点を当て、データ活用の課題を整理しながら、コンセプトとしてのPLM実現に向けたアプローチを解説する。第3回では、日本の製造業の強みである「経験値」の活用について考察する。

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3.活用があるからこそ、長期的にデータ群が出来上がる

 データを記録することを出発点にすると、「現場にもっとデータを入力してもらわなければならない」という発想が強くなりがちです。しかし、ここには大きな落とし穴があります。

 製造現場は本来、生産や品質維持といった本業で多忙を極めています。そこに加えて、「データ入力」という新たな業務負荷が追加されれば、反発や形骸化を招くのは当然といえるでしょう。さらに、入力したデータがすぐに活用される場面が見えなければ、現場にとっては「やらされ感」が強くなり、継続的な取り組みにはつながりません。

 データ活用において重要なのは、「データ利用者のニーズを出発点にする」という視点です。何のために、誰が、どのようにそのデータを使うのかが明確であれば、現場もその意義を理解しやすくなります。

 ニーズに基づいてデータの登録や入力方法を逆算的に設計することで、無駄な入力を省き、必要最小限のデータ構成に絞ることができます。こうすることで、段階的かつ持続可能なデータ活用体制の構築が可能になります。

 当社のプロダクトである製造業AIデータプラットフォーム「CADDi」でも、AIによる解析機能により図面や文書の活用を支援していますが、手始めに、図面の探索効率化や抽出情報を用いたコスト分析などから取り組むというお客さまも多くいらっしゃいます。

 そうした活用を通じて、例えば「品質情報やDR(デザインレビュー)での指摘事項などを組み合わせることで、手戻りを減らせるのではないか」といった、より新たな活用のニーズが生まれていきます。

 このような段階に至ると、たとえデータが個人のローカル環境に点在し、集約に多少の工数がかかったとしても、やらされ感なくデータ登録が進み、データ活用の深化へとつながっていきます。

 経験値の活用において最も大切なのは、「データが活用される」という事実そのものです。「まず活用」から始めて、「活用の中で気付き、整備する」というサイクルを構築することが、PLMというコンセプトを実現するための鍵となります。

 そして、このサイクルの中で得られた気付きは、やがて製品やプロセスの改善に結び付き、組織全体の競争力向上にも貢献していくのです。 (次回へ続く)

⇒ 連載バックナンバーはこちら

筆者プロフィール:

八木 雅広(やぎ まさひろ)
キャディ株式会社 エンタープライズ事業本部 カスタマーサクセス本部 本部長

クボタにて産業用ポンプの海外営業を担当し、インドとインドネシア市場において案件の開拓、契約、プロジェクトマネジメントに従事。その後、ボストンコンサルティンググループにて、製造業のお客さまとともに事業戦略の立案や構造改革を推進。モノづくり産業の一員として変革に携わりたいという思いから、2023年よりキャディに参画。

note(Masahiro Yagi)


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