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万博、そして世界へ届け――奈良発「疲れしらずのくつした」に込められた思いワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(24)(3/4 ページ)

本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、自社開発の靴下が「大阪・関西万博」の会場スタッフ用ユニフォームに採用された、西垣靴下の代表取締役社長である西垣和俊さんにお話を伺いました。

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足のブレを防ぐ“滑り止め”技術 裸の合成ゴムを編み込むという発想

ものづくり新聞 どうすれば、靴の中で足が滑らなくなるのでしょうか?

西垣さん 「編み込み滑り止め」という技術を使っています。これもうちの特許技術なんですよ。

 分かりやすくこちらの靴下(以下、写真)で説明すると、この白い部分、これが合成ゴムなんです。それも、被覆されていない、いわゆる“裸の合成ゴム”です。通常、繊維に使われているゴムというのは、全て被覆されているんですよ。

白い部分は合成ゴム。被覆せずに靴下に直接編み込んでいる
白い部分は合成ゴム。被覆せずに靴下に直接編み込んでいる[クリックで拡大] 出所:ものづくり新聞

 被覆というのは、ゴムの周りを滑りやすい繊維で覆うことをいいます。そうすることで、機械が通りやすくなります。裸のゴムというのは滑らないので、機械の中で引っ掛かって止まってしまうんですよ。

 ところが、うちでは、この“裸の合成ゴム”を滑り止めとして使うために、あえて被覆せずに靴下に直接編み込んでいるんです。ここを触ってみてください。動かないでしょう?

ものづくり新聞 あ、本当ですね! 全然違います。全く動きません。

西垣さん 体重がかかればさらに動かなくなります。これがゴムの力なんです。このゴムの力は、実は足で蹴るときにも使われているんですよ。

 白っぽいゴムがまばらに見えるのは、靴下の裏側にもゴムが編み込まれているためです(以下、写真)。靴下の裏にゴムがあることで、靴下と足が滑らなくなります。その結果、靴下の中でも足がほとんど動かなくなりますし、靴の中でもしっかり止まるんです。

靴下の裏側にゴムがあることで靴下と足が滑らなくなる
靴下の裏側にゴムがあることで靴下と足が滑らなくなる[クリックで拡大] 出所:ものづくり新聞

 このように、内側と外側の両方から滑らないようにすることで、足はとても楽になります。「クッション」と「滑り止め」、この2つの効果が合わさることで、疲れにくさにつながっているんですよ。

脱げにくさも特許で解決 短丈でもフィット感を保つ構造

西垣さん 脱げやすい靴下って、どう思いますか? やっぱり嫌ですよね。靴下が脱げやすかったら、これまでお話ししてきたような疲れにくさの工夫も、全て台無しになってしまいます。

 今回の万博用の靴下は、スニーカーソックスで、丈が短いタイプがご希望だったんです。だからこそ、脱げにくくするために、ものすごく工夫を凝らしました。

ものづくり新聞 具体的に、どのような工夫ですか?

西垣さん 踵を見てください。普通の靴下は、この踵の部分が真っすぐになっているんです。でも、ここに角度を少し加えると、どうなると思いますか? 踵がより深く入るんです。深くフィットすれば、それだけ脱げにくくなりますよね。

踵部分の角度を増やし、深く入るようにしている
踵部分の角度を増やし、深く入るようにしている[クリックで拡大] 出所:ものづくり新聞

 それから、踵の上部と口ゴムの辺りもポイントです。

踵の上部や口ゴムにも工夫が
踵の上部や口ゴムにも工夫が。写真は踵の上部[クリックで拡大] 出所:ものづくり新聞

 裏側は、こういう縫い方をしているんです(以下、写真)。この部分は伸びないので、ここでキュッとしっかり止まります。これは「W(ダブル)ヒールロック」という特許構造なんです。丈の短い靴下でも脱げにくくするために、ランナー向けの靴下を参考にして開発しました。

丈の短い靴下でも脱げにくくする「Wヒールロック」という特許構造を採用している
丈の短い靴下でも脱げにくくする「Wヒールロック」という特許構造を採用している[クリックで拡大] 出所:ものづくり新聞

 つまり、この万博の靴下には、3つの特許技術が使われているんです。「クッションの特許」「滑り止めの特許」、そして「脱げにくい特許」。奈良の靴下メーカーが初めて取得した発明の技術が、この1足に生かされているんですよ。

 安く作ることが目的じゃないんです。「いいものを履いていただくことで、皆さんに認知してもらおう。奈良の靴下、日本の技術を認知してもらおう」という思いで、今回の取り組みを行ったんです。

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