万博、そして世界へ届け――奈良発「疲れしらずのくつした」に込められた思い:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(24)(2/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。今回は、自社開発の靴下が「大阪・関西万博」の会場スタッフ用ユニフォームに採用された、西垣靴下の代表取締役社長である西垣和俊さんにお話を伺いました。
安全靴でも破れにくい! 耐久性の秘密はナイロンと編み方にあり
ものづくり新聞 この靴下には、どのような特長があるのでしょうか?
西垣さん 素材と編み方に特長があります。工場で働く方の中には、安全靴を履いて仕事をしている方もいますよね。安全靴というのは、物を落としたときにけがをしないよう、靴の中に金属が入っているんです。この金属がとても強いので、普通の靴下だとすぐに破れてしまうんですよ。
では、安全靴でも破れない靴下にするにはどうすればいいか――。そのためには、靴下自体をもっと強くすればいいんです。
ものづくり新聞 「靴下を強くする」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?
西垣さん 破れないように、しっかりと強くするということです。靴下というのは、基本的に体重がかかって、一番摩擦力を受ける部分が破れやすいんですよね。例えば、爪が当たる「つま先」や「踵」の部分です。そこを破れにくくすることで、靴下自体が強くなって、長持ちするようになるんですよ。
ものづくり新聞 破れないようにするために、どのような工夫をしているのですか?
西垣さん それは簡単です。合成繊維の「ナイロン」を使うんですよ。一般的な靴下には綿が使われていることが多いのですが、コスト面を含めて考えると、綿が一番履き心地も良くて、滑りにくいんです。
ただ、綿だけだと繊維が弱くて破れてしまうんですよね。だから、裏糸に合成繊維のナイロンを使うことで、強度を高めています。ナイロンの糸を入れると、強度が一気に上がるんです。あとは、編み方の工夫ですね。
ものづくり新聞 どのような編み方をしているのでしょうか?
西垣さん 「パイル」という編み方です。タオルと同じような編み方ですね。ここ、ループ状になっているのが分かりますか?(以下、写真) 押してみると、ふわふわしているのが分かりますよ。ぜひ触ってみてください。
ものづくり新聞 本当ですね! ふわふわしています。
西垣さん この「パイル」という編み方には、クッション効果があるんです。なぜクッションが必要なのかというと、足は体重の全てを受け止めているからです。1歩足を踏み下ろすごとに、毎回その重さが足の筋肉にかかるんですよ。それが1日1万歩ともなると、疲れない人はいないと思います。それをクッションの力で緩和させるんです。
ただ、パイル編みの靴下は、普通の靴下と比べてとても破れやすいんです。これを安全靴で使ったら、すぐに破れてしまいます。この課題を解決するのが、一番難しかったですね。そこで、強度と優れたクッション性を両立させた新しい編み方を考案しました。これが発明特許として認められたんです。
ここを触ってみてください(以下、写真)。実は、パイル編みの約2倍、一般的な靴下の約4倍の反発力があるんですよ。毎回足を下ろすたびに、筋肉にかかる衝撃を4倍も緩和してくれるというわけです。
この効果があると、1日の疲れ方がかなり変わってきます。100m歩いた程度では違いが分かりにくいかもしれませんが、1万歩も歩けば、はっきりと体感できると思います。疲労はじわじわと足にたまっていきますからね。
ものづくり新聞 考案された新しい編み方は、ちょうど土踏まずの部分に施されているのですね。
西垣さん はい、これで足底全体の疲れが緩和されるんです。ただ、疲れの原因というのは、それだけではないんですよ。例えば、長靴を履いたときって、足が疲れやすく感じませんか?
長靴で足が疲れる理由は、靴の中で足が動いてしまうからなんです。長靴というのは、足にある程度の余裕を持たせて作られているので、その分、足が靴の中で動いてしまうんですね。それが疲れにつながるんです。
これは靴下にも同じことがいえると思います。やはり、靴下が足にしっかりとフィットしていて、どんなときでも靴の中で足が動かない方が、少なくとも靴下が原因で疲れることは少なくなります。
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