パナソニックHDが最新R&D公開、「現場CPS」や「Design for CE」で見せる製造革新:未来に種をまくパナソニックHDのR&D(前編)(2/2 ページ)
パナソニック ホールディングスは、技術部門における3つの事業本部での取り組み内容を紹介するとともに、現在開発中の技術の一部を公開した。本稿前編では、3つの事業本部での取り組みと、開発中の「現場CPS」と「易分解設計(Design for CE)」について紹介する。
複数のAIエージェントで故障分析をリアルタイムで自動化する現場CPS
こうした方針を具現化した技術の内、本稿ではモノづくりに関わりの深い「現場CPS」と「易分解設計(Design for CE)」について紹介する。
現場CPSは、DX・CPS本部が主導し、CPS技術を活用した製造現場の高効率化を目指す技術だ。複雑な現場を解きほぐし、シンプル化した上でCPSを適用し、最適解を導き出せるようにするための技術や方法論について研究開発を進めている。
「現場CPS1.0」と位置付ける基本的な形としては、まず独自の現場CPS化キットなどを活用し現場情報をデジタル化し、リアルタイムで可視化できるようにする。そのデータを基に、計画/編成シミュレーションで戦略提案を行い、現場の最適化を図るというものだ。属人的な対応をCPSで補完する。既にこの現場CPS1.0では、社内外116現場で100台以上(現場CPSキット)が稼働している。
さらに進化させた「現場CPS2.0」では、現場CPS1.0で得られたデータやシステムをベースとし、業務プロセスを設計段階から見直して超効率化を実現できるようにする。設計段階までさかのぼってプロセス全体の最適化や自動化を進める。また、現場に適応型AIエージェントを複数用意し、これらを組み合わせて最適で自律的な判断を機械が自動で行えるようにする。
デモでは、FMEA(Failure Mode and Effects Analysis、故障モード影響解析)を複数のAIエージェントにより自動化する様子が紹介された。これは、360度カメラで撮影した映像情報を、画像でどういう事象かを読み解き、それをチャットでテキスト化し、その文章を読み解いて故障の種類を判別し、対応をレコメンドするという一連のシステムだ。それぞれを最適化されたAIエージェントが担っている。「製造現場でトラブルが起きたときに要因分析に多くの時間が必要になるケースも多いが、複数のAIエージェントを組み合わせて活用することで、現場で起きている事象を映像からリアルタイムで文章化して読み解き、故障要因を特定できるようになった。このシステムは社内で実証を進めている」(担当者)としている。

FMEAのデモの様子。青丸部分のカメラ映像をAIエージェントによりチャットでリアルタイムで文章化(赤丸)できるようになった。さらにこれらを読み解いて故障の判断と対策のレコメンドまでが自動で行えるようになった[クリックで拡大]
資源循環に最適な製品の形とはどういうものか
サーキュラーエコノミー時代を想定しMI本部主導で研究開発を進めているのが易分解設計(Design for CE)だ。これは、設計段階で分解容易性や組み立て容易性を簡単に評価し、修理やメンテナンス性能を高めることでより長く製品を使えるようにするという取り組みだ。「自動化による効率的なモノづくりと同時に、効率的にそれらが分解できるようにする仕組みを作る」と松本氏は説明する。
具体的には、容易に分解手順を自動で生成する「分解手順生成技術」、それを実際に人の作業やロボットの作業に割り振って評価する「分解動作生成技術」、実証を通じてCPS(サイバーフィジカルシステム)でシミュレーションを行う「分解動作実証」などの開発や検証を行っている。
「資源循環を本当に進めていこうとすると、役割を終えた製品を資源に戻すことをより容易にしていく必要がある。さらに、それらを設計時点で考えていく必要があるが、今までにその発想がなかったために、支援するツールも十分にそろっていない。資源循環のハードルを少しずつ下げていくことが重要だ」(担当者)
さらに、これらのツールを駆使し、将来の資源循環しやすい製品のイメージとなる筐体モデルなども示した。ビスをなくしたり、配線をまとめたり、重要部品へのアクセス性を高めたりしており、分解性や修理性を意識した製品となっている。「将来の製品の形は定かではないが、少なくとも故障などの可能性がある基板など重要部品は交換できるようにすることが求められるだろう。筐体は長く使っても問題ないように頑丈で質感に優れたものにしていく必要があり、中身の電子部品をモジュール化して入れ替えられるのがあるべき姿だろう」(担当者)としていた。
後編では、パナソニックHDがウェルビーイング領域の成長のために重要な技術として位置付ける「ひとの理解」技術についての取り組みを紹介する。
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