アジャイルに進化したJASPARがSDVのAPI標準化をリードする:SDVフロントライン(3/3 ページ)
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ボディー系を起点に「縦横無尽に標準化の対象を掘っていく」
MONOist 今後、API技術WGにおける標準化作業はどのように進めていきますか。
井野氏 2つのStepに分けて標準化を進めていきたいと考えている。Step1では、PoCの対象になったエアコンのような、走行安全に関わらないボディー系のアプリケーションに対応するAPIについて「JASPAR API」として標準化していく。JASPAR APIの標準化の作業で重視したいのが、会員企業から求められている成果物を出すスピーディーさだ。従来は自信作になってから出していたが、API技術WGではアジャイル開発のように、成果物を小出しでもいいので出せるものを定期的に出していく。半年に1回の頻度で活動報告を行う予定だが、その度に成果物をリリースしてもいいのではないか。
Step2では、JASPAR APIよりも下層のミドルウェアに当たるサービスやHAL(ハードウェア抽象化レイヤー)まで含めて、より深いAPIまで標準化のスコープを拡大することを検討する。異なる自動車メーカー間でAPIを介した制御の振る舞いを一致させるためには、このStep2のレベルまで踏み込んだ標準化が必要になる。ここまで標準化できれば、上層のアプリケーション開発がさらに容易になり、サードパーティーの参入も促進できるだろう。
MONOist 2025年2月からAPI技術WGの活動は始まっていますが直近のスケジュールや目標を教えてください。
井野氏 API技術WGの大きな目標は、標準化した成果物が2030年のSOP(Start of Production:車両の量産開始)に採用されることに置いている。ただし、足元での活動期間は2年間を想定しており、2026年内に標準化APIのバージョン1の実装完了を目指している。Step1をスタートラインにスピーディーにJASPAR APIの成果物を順次リリースしながら、実際に“使えるもの”に仕立てていくためには、自動車メーカーのニーズをベースにボディー系を起点とする初期のJASPAR APIから、Step2で示す縦方向や、パワートレインやシャシーなど走行安全に関わるアプリケーションも対象とする横方向など、縦横無尽に標準化の対象を掘っていく必要があるだろう。
最終目標として2030年のSOPでの採用を挙げたが、JASPARの会員企業が各社各様に良いものであればどんどん使っていってもらえることが理想だ。先行的に採用する、部分的に採用するという形になるかと思うが、そのためにはJASPARが成果物を定期的に出していかなければならない。固まったものをドンと出すのではなく、もっと高頻度に細かく積み上げていくべきだと考えている。
MONOist SDVに向けた取り組みで外部団体とどのように連携していますか。
井野氏 国内では、経済産業省と国土交通省が推進している「モビリティDX戦略」の下で、JAMAやJSAEとまとまって連携していく体制はできている。また、国内では車載APIの標準化を進めている組織として「Open SDV Initiative」もある。こちらは、サードパーティーを中心に自動運転系APIの標準化を目指しており、自動車メーカーを中心にボディー系からスタートしているJASPARと役割分担ができている。
海外の標準化団体では、欧州のAUTOSARや米国を拠点とするCOVESA(Connected Vehicle Systems Alliance)とはコミュニケーションが取れている関係性にある。AUTOSARとは、2024年6月に東京で開催された「AUTOSAR Open Conference」を起点に、2025年5月にベルギーで開催される「AUTOSAR Open Conference」にJASPARが登壇を予定するなど関係性を深めているところだ。ただし、実際の車載APIの標準化作業に関わるような深いコミュニケーションを取るのはこれからになるだろう。
MONOist JASPARも設立から20年以上が経過し、構成メンバーも、取り巻く環境も、自動車業界からの期待も以前とは大きく変わっていると思います。今後、JASPARの活動をどのように進めていきたいと考えていますか。
井野氏 これまで継続してJASPAR設立当初の情熱を絶やさずに来られたと考えているが、この情熱をキープし続けていきたい。そのためには新しいメンバーをどんどん迎え入れていかなければならない。
API技術WGは27社が参加しており、古参のメンバー、新しいメンバーが入り交じっていい活動ができている。だからこそ、同じようにSDV関連の新しいWGを立ち上げて、同様に新しいメンバーを迎えて活動をさらに活性化させていきたい。
2024年をSDV元年として、JASPARはSDVの標準化をリードしていきたい。そのためにはJASPARも進化、変化していかないといけない。API技術WGの活動がその試金石になるだろう。
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