AWSはなぜ自動車業界で採用されるのか、強みは「イノベーション文化」にあり:製造ITニュース(2/2 ページ)
アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)はオンラインで会見を開き、自動車業界における同社の取り組みについて説明した。
長期にわたる誤解を厭わなかったからこそ「Kindle」は成功した
Eコマースから始まり、クラウドのAWS、Amazonブランドの各種デバイス、コンテンツストリーミング、生鮮食品、実店舗などに事業を拡大するAmazonグループだが、そのイノベーション文化の基礎となるのが「地球上で最もお客さまを大切にする企業であること」という企業ミッションだ。岡本氏は「創業者のジェフ・ベゾスの言葉に『お客さまは常に、必ず、どんなときにも、驚くほど不満を持っている』というものがある。どんな優れたサービスに対しても顧客は必ず要望を抱えており、これに着目することでサービスの提供側が気付けなかったさらなる進化や体験を高めるポイントを知ることができる。だからこそ、顧客を大切にすることが重要という意味だ」と強調する。
その上で顧客に対して、長期的な目線で普遍的なニーズを基に対応していくことを重視している。例えば、Eコマースの場合であれば、価格は安い方がいい、品ぞろえは多い方がいい、利便性は高い方がいいといった、長期でも変わらないであろう要望にひも付くような課題の解決に優先して取り組んでいる。この「変わらないこと」に着目した体験向上を行っていくことで、持続的に安定して事業を成長させられるという。その方向性は二重のフライホイール(はずみ車)で表されている。Eコマースであれば、顧客体験の向上を起点とすると、それによって顧客数が増え、出店社が増えて、顧客にとっての品ぞろえが増えるというフライホイールの回転による好循環が起こる。この好循環からの成長によって、規模の経済による事業成長や不連続なイノベーションが起こることで低コストの体質や構造が得られ、これをさらに低価格化という形で顧客に還元すれば、また顧客体験の向上につながる。これが2つ目のフライホイールとなっている。
さらにAmazonのイノベーションを支える仕組みとして「カルチャー」「メカニズム」「アーキテクチャ」「組織」の4つを挙げた。例えばカルチャーでは、16項目から構成されている「Our Leadership Principles」という意思決定の原則がある。16項目のうちの一つである「Invent and Simplify」という原則では、イノベーションとインベンションをシンプルに体現することを重視しているが、ここで重要なのが、そのためのアイデアが長期間にわたって理解を得られない可能性があることを受け入れるところにある。
Amazon自身におけるその代表的な事例となっているのが、電子書籍リーダーの「Kindle」だ。当初のKindleは端末が大きく重いことなどもあり、それほど高い評価は得られていなかった。岡本氏は「既に電子書籍リーダーの競合企業もある中での投入だったが、当初からデバイスのスペックでは勝負していなかった。Amazonが提供するサービスとして書籍のEコマースの場合は顧客が入手できるまである程度の時間がかかってしまう。しかし、電子書籍リーダーであればその書籍の情報に即座にアクセスできる。Kindleではこの新たな体験価値を重視していた。実際に、どこでも通信できるようにモバイルSIMカードを組み込み、電子書籍リーダーの価格にSIMの通信費用を含めて販売した。その上で、デバイスに不満点があるならぜひフィードバックをほしいと顧客に伝えた。結果として現在のような電子書籍事業の成長につながっている」と説明する。
また、メカニズムでは、Amazon社内におけるビジネスプロセスである「Working Backwards」において、顧客にこだわった5つの質問で企画案を検証するようになっている。企画段階で明らかにしたくないことや答えを出しにくいことにも回答を用意すれば、顧客からは本当に求められていないソリューションに投資してしまう事態を避けられるという。その上で、プレスリリース、FAQ、ビジュアルといった文書を用意してレビューを行う。このレビューは、企業の社内会議で一般的に用いられているプレゼンテーション資料を用いた説明は禁止されており、先述した文書を参加者全員で黙読してから意見交換やフィードバックを行うというスタイルだ。「これは、プレゼンターの熱意やスキルによって認識がずれることを防ぐためだ。必ず言語化して全員が同じフェーズに立って検討できるようにする意図がある」(岡本氏)という。
イノベーション文化に基づいて生み出されたAWSクラウドのサービス
AWSクラウドのサービスも、これらAmazonのイノベーション文化に基づいて生み出され、事業を拡大してきた。2006年から他社に先駆けてクラウドサービスを提供し、現在は245の国と地域で、世界で数百万社、日本でも数十万社以上のアクティブカスタマーがいる。また、「地球上で最もお客さまを大切にする企業であること」というAmazonグループ全体のミッションに基づいて、累計で151回以上の値下げを行い顧客に利益を還元してきた。
顧客のフィードバックに基づくAWSのイノベーションは、2011年の80から2023年には3410まで拡大している。この数字は累積ではないので、右肩上がりで新たなイノベーションが毎年生み出されていることになる。
クラウドとしてのインフラは、リージョン、アベイラビリティゾーン(AZ)、データセンターという3層構造で耐障害性や冗長性を確保している。全世界でリージョンは36、AZは114あり、これらのうち日本では東京と大阪の2つのリージョンで構成されている。
岡本氏は「俊敏性、弾力性、コスト最適化、豊富なサービス、高可用性と耐障害性、高いセキュリティなどの点で顧客からの評価を得ている。これらのメリットを得られるクラウドインフラとして、自動車業界をはじめ採用が広がっている」と述べている。
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