半導体薄膜の材料分析にAIを活用 原料ガス量の自動提案に成功:マテリアルズインフォマティクス(3/3 ページ)
NTTは半導体物性の知識を用いたベイズ最適化手法を活用し目的とする組成の結晶を成膜するための原料ガス量を自動提案するエンジンを開発したと発表した。
従来のベイズ最適化と新手法の性能比較
NTTでは従来のベイズ最適化と新手法を用いて実験を行い性能を比べた。試験では、これらの機械学習を活用し、バンドギャップ波長1180nm、InP格子整合(d=5.8688[Å])(x0、y0=0.1953,0.4247)を目標とした結晶を、目標値の範囲外である6点の教師データを基に予測し妥当性を検証した。
その結果、従来のベイズ最適化では1回目の実験で妥当でない予測を行い、その後の予測精度も低かった。新手法では1回目の実験で波長や格子定数を測定し妥当な予測を行い、1回の実験で目標を達成した。その後も予測精度が高かった。
また、目標とする結晶組成が大きく変化した場合も、過去の教師データを基に柔軟に新手法で評価できるかも実験を行い評価した。その結果、新手法は3回目の実験でほぼ目標値を達成し、その後も徐々に目標により近い値を導出。このことから、目標とする組成の成膜条件の自動導出が可能であることが実証された。
今後は、新手法の適用先の探索や異なる半導体材料への適用を検討するとともに、光通信用デバイスや光電融合デバイスの材料となる半導体薄膜の製造現場に広く展開。さらに、この手法を普及させ、これまで熟練の技術者に頼っていた半導体薄膜の製造ノウハウをデータとして蓄積し、次世代への技術継承に貢献する。
小林氏は「新手法のビジネスモデルとしては、光通信用デバイスに用いる半導体薄膜の成膜を行う企業などに同手法を販売することを想定している。既に関心を示している企業もある」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
MIの船出を後押しするデクセリアルズの伴走手法とは?
本連載ではマテリアルズインフォマティクスに関する最新の取り組みを取り上げる。第5回は、光学材料部品事業や電子材料部品事業を展開するデクセリアルズの取り組みを紹介する。JSRや出光はマテリアルズインフォマティクスのプロ人材をどのように育成したのか
本連載ではマテリアルズインフォマティクスに関する最新の取り組みを取り上げる。第4回は、国内化学メーカー向けにマテリアルズインフォマティクスのコンサルティング実績を積み重ねてきたEnthoughtを紹介する。半年勉強するだけでもマテリアルズインフォマティクスは可能、TBMの挑戦
本連載ではメーカーが注力するマテリアルズインフォマティクスや最新の取り組みを取り上げる。第3回は環境配慮素材「LIMEX」と再生素材「CirculeX」を展開するTBMの取り組みを紹介する。レゾナックがAIを活用した材料探索ツールを開発、配合から試作までの時間を5分の1に
レゾナックは、AI(人工知能)を活用し材料の最適な組成を従来と比べ5分の1の時間で探索できる独自技術を確立した。光起電力材料や量子材料の探索に最適化したAIモデルを開発
東北大学らは、光起電力材料や量子材料の探索に最適化したAIモデルを開発した。従来の手法よりも最大100万倍の速さで、材料の結晶構造から周波数依存の光学スペクトルを直接出力し、材料の特性を予測できる。