エコキュート製造の三菱電機 群馬工場 翻訳サイネージ含む自動化の最前線:メイドインジャパンの現場力(2/2 ページ)
カーボンニュートラルで注目を集める「エコキュート」だが、新たな価値提案を重ねながらエコキュート製品で着実な成長を遂げているのが三菱電機だ。その中心拠点である三菱電機 群馬製作所のモノづくりの強みについて紹介する。
多国籍化が進む中「翻訳サイネージ」をいち早く導入
こうしたさまざまな機能を高い品質で実現するために欠かせないのが、工場におけるモノづくりの能力だ。群馬工場は、国内向け給湯器の中心工場として、全数検査を行うなど、高い品質のモノづくりを実現している。国内の給湯器市場は大きな伸びがなく既築物件の置き換え需要が中心となっている中、エコキュートはガスや電気温水器からの買い替えで伸びが続いている。群馬工場では2022年度に生産キャパシティーを増やしたことで現在は、十分な生産能力を抱えるというが、自動化やさらなる生産性向上は引き続きの重要なテーマだとしている。
三菱電機 群馬工場 工場長の冨永尚史氏は「自動化は進んでいるものの、給湯器製造には人手に依存する工程が多く、さらなる自動化が課題となっている。また、人手不足が深刻化する中、外国人材の採用も増やしており、現在は約2割が外国人で意思疎通などの課題を抱えている」と課題について述べている。
これらを先進のデジタル技術やロボット技術などを採用することで改善に取り組んでいる。その1つとして、三菱電機 統合デザイン研究所が開発した「翻訳サイネージ」をいち早く社内実証として取り入れた。翻訳サイネージは用意した日本語原稿をPC上のインタフェースに入力することで、英語やポルトガル語、タガログ語、ベトナム語など17カ国語に翻訳し、サイネージに同時に表示するシステムだ。翻訳された文章はサイネージ上で一定のスピードで自動的にスクロールする。日本語に不慣れな従業員に対して、その日の作業や安全性に関する情報を高い正確性をもって伝達できる。「外国人比率が高くコミュニケーションの負荷が高まっていたことから、社内でもいち早く2023年12月から実証を行っている。従業員からもおおむね好評だ」と冨永氏は述べている。
横に寝かせてタンクの溶接/組み立て作業を行い効率1.2倍に
エコキュートの製造は、取り付けるプラスチック部品の成形や、金属部品の加工などを行った後、これらを筐体に合わせて組み立てるという工程となっている。その中で、プラスチック成形や金属のプレスや溶接作業など個々の作業については、設備を導入して自動化が進んでいる。
一方で、これらの基幹部品に対し、配管加工や周辺部品の搭載などについては、人手を中心とした組み立て/加工作業が多く残されている。特にエコキュートは、熱交換器やそれに伴う配管などは非常に複雑な構造となっており「これらの作業は自動化を諦めているわけではないが、現時点では難しいと考えている」(冨永氏)。
そこで、人手作業をより負担のない形で行えるように改善を進めることがポイントとなっている。その観点で改善を進めたのが、タンク周辺の組み立て/溶接作業だ。従来は、タンクを立てたまま作業を行っていたが、高低差があるため作業者の負担が非常に大きくなっていた。これをタンクを寝かせて作業できるようにし、負荷を軽減した。これにより作業効率は約2割改善できたという。「大きな成果を生み出すことができた」と冨永氏は語る。
自動化については、搬送工程の自動化を現在徹底的に進めているという。「搬送作業は人手でやる必要がない。できる限り自動化を進めたい」(冨永氏)とし、積極的にAGV(無人搬送車)の導入を進めている。
検査工程の自動化も進めている。群馬工場の給湯器製品は、製造工程で全数品質検査を行っている他、出荷前にロットごとの抜き取り形式で、実使用を通じたテストを行っている。この製造工程検査について従来は人手で行うケースが多かったが、外観の官能検査については2024年度に画像認識技術を使った自動化を行った。「検査工程も人手が多くかかる工程だったが、徐々に自動化を進めている」と冨永氏は語っている。
今後については「人手の問題は今後もさらに深刻化すると見ており、人を増やさなくても市場の生産量に柔軟に対応できるようにすることが求められる。そのために自動化領域もさらに広げるためにトライを進めていく。一方で、人手からの切り替えが難しい領域は、人への支援を強化し負荷を下げることで人の力を有効活用できるようにする」と冨永氏は方向性について述べている。
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