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海保の船は巡視船だけじゃない、影の主役「海保測量船」のフナデジ!イマドキのフナデジ!(1)(3/4 ページ)

「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する新連載「イマドキのフナデジ!」を始めます。第1回で取り上げるのは、海上保安庁の“最先端”船舶である大型測量船の最新モデル「平洋」と「光洋」だ。

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カナダ製から国産に切り替わった「平洋」搭載AUV

 平洋では、建造にあたって予算取得の妥当性を検討した“事業評価書”において「海底性状調査能力を強化するための新たな観測機器を導入することで、取得データの品質の向上が可能となる」ことを目的の一つとして挙げているが、その実現のために、最新のAUV(自律型無人潜水機)を搭載している。

 大型測量船で以前からAUVを運用していた「拓洋」では、カナダのISE(International Submarine Engineering)製「エクスプローラー」を搭載していたが、平洋ではIHIが開発するAUVに変更された。IHIのAUVはX舵を採用しており、従来のISE製AUVの水平潜航舵+逆V字舵構成と比べて旋回性能に優れるという。ちなみに、本体サイズ(長さ4.8m)、潜航時船速(約3ノット)、潜航深度(1000m以上)、稼働時間(12時間以上)は両者同じだが、重量はISE製AUVの810kgからIHI製AUVでは885kgと増えている。

写真内右が「平洋」に搭載されたIHI製AUVで、同左が従来からあるISE製AUV
写真内右が「平洋」に搭載されたIHI製AUVで、同左が従来からあるISE製AUV[クリックで拡大] 出所:海上保安庁

 IHIは近年、海洋探査技術の研究開発に注力しており、特に自律航行技術、エネルギー管理、環境適応性の向上に重点を置いている。

 IHIのAUV開発における課題の一つが、深海における自己位置推定精度の向上だ。海中ではGPSが利用できないため、AUVは自律的に自己位置を“推定”しながら航行する必要がある。IHIではこの課題に対し、INS(慣性航法装置)やDVL(ドップラー流速計)に加え、音響測位(LBL)やマルチビーム測深機(MBES)を組み合わせた統合航法技術を開発。INS単独航法で生じる累積誤差を補正することで、長時間の潜航でも高精度な測位を可能にした。

IHI技報に掲載されたIHI製AUV社内試験機の構造
IHI技報に掲載されたIHI製AUV社内試験機の構造[クリックで拡大] 出所:IHI技報

 また、AUVの運用においては、限られた電力で長時間の航行を実現することが不可欠だ。その対策のためにIHIは、推進システムの効率向上とバッテリー管理技術の最適化、省電力モードの導入などに取り組むことで、エネルギー消費を抑えながら長時間の潜航調査を可能にする技術を開発している。このおかげで、従来よりも広範囲の海底探査が効率的に実施できるようになった。

 従来のAUVは、事前に設定したルートを航行する方式が一般的で、海底地形の急激な変化や障害物への対応が困難だったが、IHIではリアルタイムで3D地形を把握しながら最適な航路を選択する自律航行機能を開発し、AUVが潜航中に周囲の状況を判断しながら柔軟に対応できるようにした。この技術確立によって海底熱水鉱床や断層地形など複雑な海底地形でも、安全かつ高精度なデータ取得が可能になったとしている。

AUVの運用方法
AUVの運用方法。この図では音響測位装置をブイとして海面に投入しているが、平洋型では船底から海中に降下させた音響通信装置で海中にあるAUVとデータを送受信することでAUVの運用がより柔軟にできるようになったという[クリックで拡大] 出所:海上保安庁

 この他にも、平洋にはASV(小型無人ボート、海上保安庁的正式名称は自律型高機能観測装置)として英ASV(Autonomous Surface Vehicle、企業名)の「C-Worker 6」やROV(遠隔操作水中機器)など無人モビリティを充実させているのが特徴といえる(※なお、海上保安庁が保有する無人モビリティとしてAOV(自律型海洋観測装置)もあるが、こちらは各管区保安本部が運用するため海洋情報部に所属する測量船に搭載されない)。

「平洋」に搭載されたASV「C-Worker6」
「平洋」に搭載されたASV「C-Worker6」[クリックで拡大] 出所:「SEA JAPAN 2024」の海上保安庁ブースの展示パネル

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