海保の船は巡視船だけじゃない、影の主役「海保測量船」のフナデジ!:イマドキのフナデジ!(1)(2/4 ページ)
「船」や「港湾施設」を主役として、それらに採用されているデジタル技術にも焦点を当てて展開する新連載「イマドキのフナデジ!」を始めます。第1回で取り上げるのは、海上保安庁の“最先端”船舶である大型測量船の最新モデル「平洋」と「光洋」だ。
なぜ電気推進方式を採用しているのか
電気推進では、ディーゼルエンジンで発電した電力でモーターを駆動するため、従来のプロペラ軸直結方式のようにエンジンの回転数に依存せず、モーターの回転数を自由に制御できる。加えて機関直結のプロペラ軸駆動では制御が難しい微速航行時でも回転数=推進力の調整がスムーズに行える。エンジンの最適運転が可能になることで燃費や騒音を抑制できるといったメリットもある。
推進器に採用したアジマススラスターは、回転動力を垂直駆動によってプロペラに伝える構造となっている。直立駆動軸を中心に360度旋回でき、駆動軸下端に位置するプロペラも同時に回転するため、任意の方向に推進力を発生できる。このおかげで舵や後進のための逆転機構が不要なシンプルな機構となり、前進と後進だけでなく横移動やその場旋回も容易に操船できる。
平洋型では2基のアジマススラスターを左舷と右舷に備えており、それぞれを個別に制御することで、測量に求められる定点保持能力が向上し、潮流や風に影響されにくい安定した航行が可能となる。また、船首両舷に備えたバウスラスターと連携制御することで、測量時の定点保持精度を向上させている。
なお、海中を伝わる音響信号を測定データとして収集する海洋測量では、キャビテーション(プロペラの回転に伴う圧力変化により発生する気泡現象で、振動や騒音の原因となる)による水中雑音が測定データに悪影響を与えないよう、プロペラは船首側に配置する「プル型」を採用し、水流が均一に流れる設計としている。加えてバウスラスターのトンネルには開閉式の蓋を設け、不要な水流によるノイズ干渉を防いでいる。
測量船では停船時や低速航行時の船体動揺が測定精度に大きく影響するため、大型の減揺タンクを搭載し、動揺を最小限に抑えている。これにより、長時間にわたる精密測量を安定した状態で実施できるようにしている。
平洋と光洋は外観が同じことから姉妹船(軍艦でいうところの同型艦)と認識されることが多い。ただし、実装された観測能力(そしてそこから託される任務)からすれば、全く異なるタイプの測量船といえる。たまたま観測機器を載せるプラットフォームとしての“船”は同じではあるものの、載せる観測機器とその観測機器で挙げられるデータ(観測成果とそこから分かる科学的事実)は異なってくる。飛行甲板を持つ「かが」であっても載せている航空機が哨戒ヘリの「SH-60K」だけだったら対潜任務しかできず、戦闘機の「F-35B」だけだったら制空任務しかできないのに近い(たとえが物騒?)。
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