日系自動車メーカーのSDVは“多様さ”が鍵に、モビリティDX戦略が重視するもの:ITmedia Virtual EXPO 2025 冬 講演レポート(2/2 ページ)
「ITmedia Virtual EXPO 2025 冬」の「未来技術戦略EXPO」において、経済産業省 製造産業局 自動車課 課長補佐の吉本一貴氏が「モビリティDX戦略が重視する3つの領域と足元の動向」と題して行った講演から抜粋して紹介する。
SDV領域ではソフトウェア人材の獲得も重要視
将来的に主力になるとみられるSDVについては、EV(電気自動車)だけでなくガソリン車も含めて全てのクルマでSDV化が進んでいくと予想される。日本としてはターゲットの市場や強みであるパワートレインの多様性や乗り心地の良さなどを踏まえて、パワートレイン、機能、価格面での多様なSDV化を目指すことが重要だ。
モビリティDX戦略の目標は、SDVのグローバル販売台数における「日系シェア3割」(2030年および2035年)の実現に置いている。現在のSDVに限らない全体の新車販売の日系シェアも約3割であり、「これと同等の水準をSDVでも獲得するというのが今回のポイントだ」(吉本氏)という。2035年におけるSDVのグローバル販売台数を約5700万〜6400万台と想定した場合、日系シェアの約3割なので約1700万〜1900万台に相当する。この目標を達成するためのロードマップは、3つの領域の取り組みをしっかり進めることに加えて、2025年に約3万3000人、2030年には約5万1000人不足すると見込まれるソフトウェア人材の獲得など領域横断的な施策も同様に重要視している。政府としてはSDV領域における競争領域と協調領域を再設定し取り組みが加速するように支援をしていく方針だ。
自動運転などのモビリティサービスの目指すべき姿としては、まずは有人の形態も含めて地域のサービスとして早期に実装することで社会受容性や環境整備を進めて基盤を固め足元の課題に対応していくことが必要という。同時に、より複雑な交通環境でのサービスを実現するために、技術の高度化や事業化を進め、自動運転などのモビリティサービスの本格的普及につなげていく。これらの取り組みを加速していくには、官民プロジェクトで創出した先行事例の横展開に向けて、混在空間での自動運転実現が必要となる。選択肢の一つとしてインフラ協調型システムの実証を強化し、協調型システムの基本的な目標/要件を設定し全国での実装の基盤を固めることが大切のようだ。さらに、早期社会実装の観点から、閉鎖空間と混在空間の中間的性質を持つ高速道路における実装を進めることが求められる。インフラやデータ基盤の開発/整備やユースケース具体化などを進め、人流だけでなく物流についてもカバーしていく。
2025年度までの新たな自動運転移動サービスの実現に向けた環境を整備するため、国土交通省などと連携して「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を2023年に立ち上げた。事業者と関係省庁が密接に連携しながら、関係法令に基づく許認可の手続きを円滑に進めていくための情報共有や論点整理を進めている。令和6年度(2024年度)補正予算においては地域の移動課題解決に向けた自動運転サービス開発/実証支援事業についても措置している。自動車メーカーを中核とした日本発の自動運転の標準モデルの構築を通して、地域における移動課題解決とモビリティ産業の創出を目指している。
新たなイノベーションの創出、ソフトウェア人材の確保、地域サービスの早期実装などのモビリティDXを進めていくには、自動車業界だけでは解決できないことも多い。講演では、技術やアイデアを持つスタートアップや異業種、人材を進めるアカデミア、地域の移動プラットフォームを担う自治体などを巻き込んでDXを進めていくためのエコシステムとなることが期待されている「モビリティDXプラットフォーム」に関連する取り組みなども紹介した。
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