東洋信号通信社が「AIS」を集めてWeb配信する理由:船も「CASE」(2/3 ページ)
現代の船舶が航行する際に必須とされる「AIS」情報を提供する日本の有力企業の一つに東洋信号通信社がある。1932年7月設立の同社は、なぜAIS情報を集めてWeb配信するようになったのだろうか。
時代が進むにつれて広がっていった船舶動静情報の入手手段
時代が進むにつれて、船舶動静情報を入手する手段は広がっていった。昭和の初めは横浜港の近くにある高台(現在の港の見える丘公園)に本社建屋を兼ねた望楼と旗竿を設けて港周辺の海を双眼鏡で見張り、目視で確認した船舶動静を旗竿に掲げた信号旗で港湾周辺の関連企業や人員に周知させていたという(港の見える丘公園の同じ敷地には今もTSTの社屋と鉄塔がある。現在、社屋は後述するポートラジオのオペレーターの研修施設として使用されており、そこでは座学やシミュレーターによる養成が行われている。また、鉄塔は後述する国際VHF無線のアンテナを設置するためのものではあるが、そこに信号旗が今なお掲揚されている)。
さらに、霧がかかって港の外海を目視できない海象でも船舶動静を把握するため、自前の船「もやこ丸」(船名の由来は「もや困る」→「もやこ丸」とのこと)を用意して、船から目視できた船舶動静を電信で陸に伝えていた。本社の望楼から確認できない船舶動静を得るために情報収集手段を技術の進化に合わせて拡張していくのは現代も変わらない。
TSTは、船舶の無線電話通信手段として国際標準となっている国際VHFについても運用している。というのも、国際VHF海岸局の免許を有する港湾管理者が、実際の通信業務(これは港務通信業務とよばれている)をTSTに委託しているからだ。本社社屋からは入港の3時間前から直接本船と到着予定時間など入港のための“会話”で情報交換ができるようになっている。交換した本船情報から水先人やタグボート関係者、船舶代理店、船荷積み降ろし事業者などに船の動きをTSTから告知する。
それに加えて、船が入港するときに、船長の操船を補助するための情報をTSTがポートラジオとして国際VHFなどで提供している。「例えば、“これから出港する別の船がいます”や“あなたの後ろに続いている船は○○岸壁に行きます”といった情報、“航路管制信号は、出港船の通過後まもなく入港信号に変わります”といった情報がその典型的な例です」(坂野氏)。その他にも、入港直前における海象気象(着岸する海域の風況など)などの情報を水先(案内)人に対して提供することもあれば、船舶代理店には、実績としての入港開始時刻を知らせることもある。
TSTを通してこれらの情報を得る大きなメリットとして、「船舶動静情報についていえば、網羅性があるかどうかが重要」(坂野氏)だという。
「ユーザーは、自社が関与している船の動きやスケジュールはある程度把握できています。しかし、自社が関与していない船の動きについては情報が十分でないこともあり、港全体のスケジュールを網羅的に把握している事業者はいません。そこで、当社がそういった情報を提供しています」(坂野氏)
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