ERP導入によって製造業はどう変われるのか?:製造業ERP導入の道しるべ(1)(1/3 ページ)
国内製造業にはERP導入を検討している企業も多いが、実際の導入効果のイメージがつかないというケースも少なくない。本連載ではSAPのERPを例にとって、ERPの導入効果や業務効率化のアプローチなどを紹介する。
日本の製造業の多くが、情報の見える化、IT人材の不足、システム維持コストの高止まりなど、さまざまな課題を抱えている。そうした課題を解決するためにERP(Enterprise Resource Planning)の導入を検討している企業も多いが、実際に製造業がERPを導入することで、どのような効果が得られるのかが分からないままでは話が進まない。
本連載では、日本ですでに多くの企業で導入されているSAPのERPを例にとって、クラウドにも対応している「SAP S/4HANA」の導入を支援してきた私たちの経験を基に、ERPの導入効果や業務効率化のアプローチなどについて紹介する。
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ERP導入前の製造業における課題
私が担当してきた企業は、売上高が数千億円ほどの準大手製造業が中心だ。そうした企業には、そもそもどのような課題があったのか。
(1)経営判断に必要な切り口/精度/タイムリー性が不足している
昨今、製造業の内部、外部環境は激しく変化している。意思決定のスピードや、それに必要な情報の精度向上などが求められるが、システムやデータなどが個々の部門や拠点で別々に管理され、情報の保管、整理の方法や粒度が異なっていることも多い。このようにサイロ化された組織/仕組みの中では、経営判断に必要な粒度で情報をタイムリーに取り出すことが難しい。
例えば、同じ製品であっても、国や地域によって異なる製品コード体系で扱っている場合、グローバルでその製品の売り上げと在庫を確認すると、コードの変換作業などさまざまな手間を要する。あるいは、フォーマットが異なるデータに対して、Excelなどを使って手作業で資料を作るような状況ではミスも生じやすい。そういった業務効率の低下が、タイムリーな経営判断の支障になってしまう。
それらのデータを1つのコード体系で運用できれば業務の無駄がなくなり、精度の高い情報が一目瞭然で見えるようになる。このように、まずは情報を一元化し、それらの情報を経営判断の材料としてタイムリーに見ていくことが求められている。
(2)業務改善/DXソリューション採用の障壁となっている。
現在、市場には業務改善や高度化を目的としたDX(デジタルトランスフォーメーション)ソリューションが数多くある。自社に適したソリューションを導入すれば、競争力強化や業務効率化、コスト削減につなげられるだろう。
一方、部門や事業、拠点によって個別最適化、サイロ化された仕組みで運用している場合、それに合わせて個別にソリューションを適用していく必要がある。導入期間の長期化やコスト増加を招くため、DXソリューション採用の大きな障壁となる。
同様に、サイロ化された仕組みの場合、特定拠点の改善事例を他拠点に展開したくとも業務運用やシステムの違いが障壁となり、共有できないことも多い。
(3)既存システムの運用・保守が難しい
企業によっては、数百もある個別最適化されたシステムを組み合わせて運用している。同システムに対して都度追加要望の改修を行うため、システム全体が複雑化、肥大化している。一方で、現状の情報システム部のIT人材の定年退職が迫っている中で、新しいIT人材の採用ができていない。そのような実態では、現在のシステムを今後も長期間運用/保守していくのが難しい。
そのように複雑化したシステムに対してさらなる改修を行う場合、事前の調査費用も含めて全体のコストが大きく膨らんでしまう。
また、どこに手を入れていいのかが判断できない状態になっているので、内部/外部環境変化に追随するために必要となるシステム改修が、さらなる柔軟性の欠如を招く悪循環のサイクルとなっている。
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