製造業はサステナビリティのために何をすべきか:オートデスク×パナソニックHD対談
地球や社会の持続可能性に関する企業活動が大きく注目されている。その中で具体的に何をすべきなのだろうか。オートデスク 代表取締役社長の中西智行氏と、パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCTOの小川立夫氏が対談を行った。
地球規模での気候変動や資源の枯渇など、地球や社会の持続可能性を脅かす問題が世界的に大きな注目を集めている。その中で、企業は具体的にどのような考え方で、どのような取り組みを進めていくべきなのだろうか。オートデスク 代表取締役社長の中西智行氏と、パナソニック ホールディングス 執行役員 グループCTOの小川立夫氏が「企業におけるサステナビリティの位置付けとその重要性」をテーマに対談を行った。
いまや「サステナビリティ」は、企業の最優先課題に
── サステナビリティについてどう捉えていますか。
オートデスク 中西氏(以下、中西氏) サステナビリティは企業経営において、不可欠な要素となってきています。特にわれわれが提供するCADや3D設計などのソフトウェアで支援している製造業や建設業は、温室効果ガスの主要な排出源となっています。温室効果ガス排出量を産業別に見ると、建設業関連は42%、製造業は20%を占めるとされており、温室効果ガス排出量削減への取り組みは、避けて通れなくなっています。
われわれは、関連業界の動向調査を定期的に行っていますが、最新の「2024年度版 デザインと創造の業界動向調査」では、日本企業の96%がサステナビリティ向上のためのアクションを起こしていることが分かりました。グローバルで見ると、調査に参加したデザインと創造業界のビジネスリーダーたちの71%が過去3年間でサステナビリティへの投資を増加させたと答えた一方、回答者の76%が今後3年間で投資拡大を計画していることも分かりました。
サステナビリティに取り組むことが、短期的にも長期的にも企業利益につながる環境が生まれてきています。世界経済フォーラムの調査によれば、デジタル技術を活用することで、世界の温室効果ガス排出量の20%を削減可能で、オートデスクもそれを実現するために積極的に取り組んでいます。例えば、炭素排出量を測定・管理し、削減するためのデータ活用を推進する他、AI技術を用いて設計の代替案を生成したり、建物や設計が環境に与える影響を事前に評価したりする仕組みを提供しています。
パナソニック ホールディングス 小川氏(以下、小川氏) パナソニックグループは、創業者(松下幸之助氏)が掲げた「物心一如(精神的な安定と物資の無尽蔵な供給が相まってはじめて人生の幸福が安定するという考え)」の下、それを実現するために何ができるかを考えた事業経営を進めています。その中で、「地球環境問題の解決」と「お客様一人ひとりの生涯にわたる健康・安全・快適」を目指しており、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」を実現することを企業理念の中心に据えています。
その理念のもと、環境については、長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」を発表し、具体的にロードマップや目標指標などを置きながらさまざまな取り組みを進めています。さらに、これらを実現する技術面でも、2040年にありたい姿から逆算した「技術未来ビジョン」をパナソニック ホールディングスの技術、デザイン、ブランドの3部門で策定し、それぞれのテーマで研究開発を進めています。これらの活動の根幹にサステナビリティがあるといえます。
サステナビリティにおけるソーシャルインパクト
―― 最近はソーシャルインパクト(社会課題に対する良い影響)という考え方も重視されていますが、サステナビリティの推進においてどのように捉えていますか。
中西氏 オートデスクでは、社会的および環境的インパクトの創出を企業戦略の中核に据え、「HOW」(どのように)と「WHAT」(何を)の2つの面で考えています。
まず「WHAT」に関しては、「エネルギーと材料」「健康とレジリエンス」「仕事の在り方と社会の繁栄」という3つの主要なインパクト領域を設定しています。例えば、再生可能エネルギーや温室効果ガス排出削減、省資源化の推進、そして安全で健康的、かつレジリエントな製品や地域社会の実現、多様性や公平性を促進する未来の働き方に対応するスキル習得や知識の促進などを通じて、より良い社会を目指しています。「HOW」については、自社の業務改善や顧客とのパートナーシップ、さらには業界全体の変革を通じて、これらのインパクトを具体的に実現する仕組みを構築しています。
例えば、「Autodesk Foundation(オートデスク基金)」を通じて、社会的および環境的インパクトを与えるプロジェクトや団体を支援しています。この基金では、資金提供や技術サポート、さらにはボランティア活動を通じて、貧困層支援や教育問題などの課題解決に取り組んでいます。具体例としては、発展途上国向けに自然災害に強い建築物に取り組んでいる「Habitat for Humanity(ハビタットフォーヒューマニティー)」への投資や、海洋ごみ回収プロジェクトの「The Ocean Cleanup(オーシャンクリーンアップ)」への支援があります。さらに、AI技術やデジタルツールを活用し、設計から運用までのあらゆるプロセスで環境へのインパクトを削減するプロジェクトなども行っています。
小川氏 われわれも、サステナビリティを実現する上でのソーシャルインパクトとしての捉え方は非常に重要だと考えています。「Panasonic GREEN IMPACT」の中では、単に環境負荷を削減するだけでなく、「より良いくらし」と「持続可能な地球環境」が両立できるよう、カーボンニュートラルとサーキュラーエコノミーの実現にチャレンジしながら、さまざまなインパクトを拡大していくことを目指しています。
さらに、パナソニック ホールディングスで策定した技術未来ビジョンでは、「エネルギー・資源がめぐる」、2つ目が「生きがいがめぐる」、3つ目は「思いやりがめぐる」という3つの「めぐる」をキーコンセプトで関連する技術を体系づけ、それぞれで研究開発を進めています。それにより、「資源価値最大化」と「有意義な時間創出」「自分らしさと人との寛容な関係性」を実現することを目指しています。
例えば、CPS技術を活用したソリューション群を展開し、エッセンシャルワークに代表される労働集約型の現場を、個々の能力を発揮する現場へと変革することに取り組んでいます。こうした現場での自動化や遠隔化、強調作業を推進することで、効率化や生産性の向上を図ると同時に、現場における労働負荷を軽減し、人々が能力を最大限に発揮できる環境作りに貢献しています。
また、技術の活用だけでなく、長年にわたって「企業市民活動」として地域社会への貢献にも注力しており、地域コミュニティーへの各種支援活動や中学生を対象に主体的な進路選択を支援するキャリア教育プログラムの提供を含む幅広い支援活動を実施しています。これらは、単に企業の利益を追求するだけでなく、地域社会全体の繁栄につながる重要な活動であると捉えています。これらの非財務的活動の価値をどうやって評価していくのかというのが今後のポイントだと考えています。
AIが拓くサステナビリティの未来
── これらの活動をビジネス面と両立させられるようにする意味で、期待されるのが技術的なブレークスルーだと思いますが、特に注目している技術はありますか。
中西氏 カギを握るのはAIだと考えています。生成AIを含めてAI技術の進化が著しいことでデータの取り扱いが行いやすくなっています。現状でのデータ活用では、まずは現状把握である「見える化」を進めることが中心ですが、AIを活用することでさらに人の判断を含めた作業を担わせることが可能になります。例えば、簡易な設計作業をジェネレーティブデザインなどでAIに担わせるようなことも可能となります。人間が1時間かける作業も、AIを活用すれば数秒で終えることができるかもしれません。
また、設計段階から製品のライフサイクル全体を見通し、環境負荷を分析し、最適な設計を推薦することも可能となります。例えば、建物を設計する際に、どれだけのエネルギーでどの建材を使った建築物であれば、どれだけ排出を抑えられるかなどを評価する仕組みです。さらに、仮想空間でシミュレーションを行い、資源の最適化や新たな価値創出につなげることも期待されます。
修理がしやすい設計や、それに伴うコストと価値の可視化も含めて、AIにより従来は正しく考えることができなかった領域も、正確に捉えて判断できる可能性が生まれてきます。それにより、抜本的に環境負荷を下げられる可能性が生まれます。加えて、環境負荷をベースに考えることで、新たなビジネスモデルなども考えられるかもしれません。家電製品もサブスクリプション型の方がよいという考えになるかもしれません。そのために設計段階で製品としての在り方もシミュレーションしていくようなことが求められます。
小川氏 確かに、家電製品の耐用年数に関する考え方も変わってきています。パナソニックグループとしても、家電製品のサブスクリプションサービスにもいくつか試験的に挑戦していますが、どういう形が最適かは模索している最中です。ただ、われわれも将来的に環境に負荷を与え、廃棄するしかない製品であり続けることを望んではいません。家電や機器がバージョンアップされながら使われ続け、自然にも人にも優しい形で次世代へ譲られるような未来が理想です。日本人の「モノを大切にする文化」を生かし、地域の電器店などを通じて、修理を続けて使われ続けるような世界を実現したいと考えています。
そのためには、設計段階でどういう製品の形やビジネスモデルが理想なのかを描いて把握できるようにすることが必要だと考えています。AIやデータの活用なども含め、そういう仕組み作りにも現在挑戦しているところです。
―― ありがとうございました。
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