有田焼の文房具やカトラリー 器だけじゃない、文翔窯のひと味違うモノづくり:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(19)(4/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。第19回では佐賀県伊万里市と有田町の窯元の若手経営者や後継者などで結成したNEXTRADのメンバーで、文翔窯の代表である森田文一郎氏に話を聞きました。
「喜ばれるものを作ろう」 出発点になった陶器市の思い出
ーー森田さんは小さいころからモノを作るのが好きだったのですか?
森田さん そうですね。継がないといけない事情があったわけでもないですが、なんとなくずっと自分も焼きものを作りたいなと思っていました。
小さい頃は、土をこねこねしてお茶碗なんかを作って、「できた!」って満足して遊んでいましたね。有田では、毎年ゴールデンウィークの時期に有田陶器市という大きなイベントが開催されます。その時期に合わせてゾウやキリンの人形を粘土で作って、窯で焼いて、自分で値付けもして出品したことがあるのですが、なんとそれが売れたんです。一生懸命作ったものをいいねって褒めてもらえた、購入してもらえたその時のうれしい気持ちが、自分の中で今も根底にある気がしています。
最近は、ホームセンターを見て回ることもあります。道具としてこれを使えないか、生地を浮かせて焼きたい時のためにこれを加工してみようかな、とあれこれ考えたり、使えそうなものを探したりする時間が楽しくて、結構好きです。まだ誰もやってなさそうなモノづくりに挑戦したい、そして作ったものでお客さまに喜んで欲しいと思っています。
ーー森田さんが今後どんなモノづくりをしていきたいのか、教えてください。
森田さん もし自分の窯が果たすべき役目が1つあるとしたら、それは器とは異なる分野のものを焼きもので作ることによって、食以外のシーンで有田焼との接点を作っていくことだと思います。
焼きものは一種の嗜好品みたいなものじゃないですか。味気ない器でも料理は食べられるけれど、自分でこだわって選んだ器でなら、よりおいしく感じられる。そういう、使う人の気持ちを盛り上げてくれるものですよね。
それに対して僕が思うのは、焼きもののそういう役割って、別に器だけじゃなくてもいいじゃないっていうことです。焼きものにしかないきれいな雰囲気や質感は、文房具、インテリア雑貨など、いろいろなものに使われていてもいいはず。たまたま僕は有田の焼きもの屋の息子で、父はちょっと変わった有田焼を作っていたので、そういうものをもっともっと届けていきたいなと思っています。
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あとがき
2024年5月、東京都台東区で開催されたイベント「モノマチ」のNEXTRADのブースで森田さんのカトラリーに出会いました。伝統工芸品には、ちょっと近寄りづらい、気軽に触ってはいけないような雰囲気を感じることもありますが、そのときカトラリーを目にして「これはなんだろう?」とつい手に取り、引き付けられたのを覚えています。森田さんの人柄もどこか感じられる、そのカトラリーの優しい色合いや親しみやすいデザインが、この有田焼の計5本の記事を書く入り口となりました。
日常で日本の伝統工芸品を使う、身に纏うっていいなと思ったので、私も文翔窯のボールペンを愛用しています。滑らかな手触りとほどよい重さがあって気に入っています。料理をよりおいしくする食器と同じように、このボールペンで書く一文字一文字はいつもよりちょっと特別。書くこと、言葉で表現することがもっと好きになりました。(ものづくり新聞記者 佐藤日向子)
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2024年現在、170本以上のインタビュー記事を発信し、町工場の製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
編集長
伊藤宗寿
製造業向けコンサルティング(DX改革、IT化、PLM/PDM導入支援、経営支援)のかたわら、日本と世界の製造業を盛り上げるためにものづくり新聞を立ち上げた。クラフトビール好き。
記者
中野涼奈
新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
佐藤日向子
スウェーデンの大学で学士課程を修了。輸入貿易会社、ブランディングコンサルティング会社、日本菓子販売の米国ベンチャーなどを経て、2023年からものづくり新聞にジョイン。
木戸一幸
フリーライターとして25年活動。150冊以上の書籍に携わる。2022年よりものづくり新聞の記事校正を担当。専門分野はゲームであるが、かつては劇団の脚本を担当するなど、ジャンルにとらわれない書き手を目指している。
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