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CNT繊維の強度低下の原因を解明、電子線の照射により高強度化研究開発の最前線

筑波大学と高度情報科学技術研究機構は、紡糸したカーボンナノチューブ繊維の強度が低下する原因を解明した。静止摩擦と動摩擦を繰り返すスティックスリップ挙動が起こり、分子同士の滑り現象が発生する。

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 筑波大学と高度情報科学技術研究機構は2024年10月28日、住友電気工業との共同研究で、紡糸したカーボンナノチューブ(CNT)繊維の強度が低下する原因を解明したと発表した。

 強度や軽量性、導電性、熱伝導性に優れるCNTは、航空宇宙、建材、耐衝撃材料、エレクトロニクス、エネルギーなど、多岐にわたる分野での応用が注目されている。しかし、繊維として紡糸すると、理論上の破断強度を大きく下回ることが判明しており、分子同士の滑り現象が原因と見込まれてきた。

 この滑り現象の解明に向け、研究グループはCNTと窒素をドープした窒素ドープCNT(NCNT)の滑り試験を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。

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本研究で開発したその場引張試験用TEMホルダーと実際の引張試験時のTEM像[クリックで拡大] 出所:筑波大学

 CNT間での滑りに必要な力を解析したところ、不純物がほとんど存在しない環境のCNTとNCNTで、静止摩擦と動摩擦の繰り返し現象である「スティックスリップ挙動」を確認。これが分子間の摩擦特性や、材料全体の強度に影響を及ぼしていることが明らかとなった。一方、不純物が存在する場合はスティックスリップ挙動が見られず、分子同士が一度に大きく滑る。

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TEM内滑り試験で得たCNT滑り抵抗力。(a)不純物がほとんど存在しない環境での滑り試験。分子同士が固着するスティック状態と、分子同士が滑っていくスリップ状態によるのこぎり状のピークが複数観察された。(b)不純物が存在する場合の滑り試験。連続的なスティックスリップ挙動は見られず一度の滑りで分子同士が分離した。(c)電子照射数を変えた場合の、同じ接触長のCNT分子同士とNCNT分子同士のサンプルを引っ張った際の最大滑り抵抗力。[クリックで拡大] 出所:筑波大学

 理論計算シミュレーションを用いた解析では、分子間の接触領域で発生するファンデルワールス力や、原子レベルでの積層構造が、スティックスリップ挙動を引き起こす主要因であることが判明した。

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分子動力学計算を用いたCNTの引っ張りシミュレーション。(a)シミュレーションに用いたNCNTのモデル。(b)引っ張り時に生じるCNTおよびNCNT間の滑りで生じるスティックスリップ挙動。(c)引張量が大きくなりCNT同士の接触長が短くなると、グラフの傾きが見られなくなり、スティックスリップ挙動が消滅して分子同士の接着がなくなる。[クリックで拡大] 出所:筑波大学

 また、CNTとNCNTに電子線を照射すると滑り抵抗力が増加し、CNT分子間の滑りを抑制することも分かった。特にNCNTは窒素ドープによって分子表面の化学反応性が高まり強固な結合が形成されやすく、CNTよりも4倍速く滑り抵抗を高められる。

 研究グループは今後、CNT分子同士の結合をさらに強固にできるドーピング手法や電子線照射技術の開発に取り組む考えだ。CNTやNCNTを用いた高強度材料の開発が期待される。

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