ボルト締結体のシミュレーションについて考える:CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(16)(4/4 ページ)
金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第16回では「ボルト締結体のシミュレーション」について取り上げる。
スパナを外したときの軸力低下
「スパナを外したときの軸力低下」ですが、日本機械学会の論文でスパナを外した瞬間に軸力が10〜15[%]低下するとの報告があり、今まではこれを考慮していました。軸力が下がる理由は、図21に示すように、ボルト頭と被締結体に生じる摩擦トルクの方向が、スパナでボルトを締め付けるときとスパナを外したときで反転し、力の再配分が行われるためです。
この点についても実験しました。実験装置は図17と同じですが、スパナにひずみゲージを付けてスパナのトルクも測定しました。スパナはピークトルクを測定できるので、この情報からひずみゲージの校正を行いました。
図22に締め付けトルクの軸力の時間変化を示します。青色のグラフは締め付けトルクで、増加/減少後ゼロになっています。オレンジ色のグラフは軸力の変化で増加しています。3つのグラフでともにいえることは、「トルクがゼロになるとき、つまりスパナを外した瞬間、軸力の低下は観測されない」でした。筆者は何年間かガセネタをつかまされていたようです。
図22を見てみると3者似たようなトルクですが、グリスの有無、被締結体の表面粗さの違いにより、軸力がばらついていることも分かります。
ボルトの軸力決定方法
軸力を低下させる要因の最後に「被締結体のクリープ変形」がありますが、今回はクリープ変形しない構造だとします。クリープ変形後の軸力推定は過去の連載記事「設計者向けCAEを使ったボルト締結部の設計」で一例を紹介しています。
シミュレーションで設定するボルトの軸力は式2となります。
締め付け係数Qを3程度としたことによって約半分、機械の稼働によってボルト近傍が揺すられて20[%]減というところでしょうか。
シミュレーションはできるようになりました。次回は被締結体に作用する繰り返しし荷重において、ボルトが疲労破断しない条件を求めましょう。 (次回へ続く)
Profile
高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表
1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。
構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ
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