欧州の航空宇宙分野で名を馳せるRTOS「PikeOS」の出自はL4 Kernelにあり:リアルタイムOS列伝(52)(3/3 ページ)
IoT(モノのインターネット)市場が拡大する中で、エッジ側の機器制御で重要な役割を果たすことが期待されているリアルタイムOS(RTOS)について解説する本連載。第52回は、欧州の航空宇宙分野で広く利用されている「PikeOS」を紹介する。
2021年にはPikeOS for MPUを投入
対応するアーキテクチャはPowerPCとx86、Arm v7A/v8A、SPARC/LEON v8、RISC-Vとなっている。当初はMIPS32が含まれていたが、これはサポートが落ちてしまった。SPARCとPowerPCは、特に航空宇宙向けで現在も広く利用されている。Frontgrade(旧Gaislerを買収)のLEONは、ESA(欧州宇宙機関)と共同で開発されたSPARC v8互換の航空宇宙向けプロセッサで、衛星などに多用されている。この後継はRISC-VベースのNoel-Vで、そのあたりでRISC-Vのサポートが追加されたようだ。
一方Teledyne e2v(旧e2v)は、NXPからPowerPCベースのQorIQのデザインを入手した上で、航空宇宙向けの対応を行った製品をリリースしており、こちらも航空宇宙向けに使われている。ただそのTeledyne e2vも最近はArmベースのQorIQ Layerscapeの航空宇宙向け製品をラインアップし始めており、長期的にはSPARC/PowerPCはサポートから外されていくのかもしれないが。
さて、そんなわけでPikeOSはちゃんとMMUを搭載したMPU(Micro Processor Unit)がターゲットのRTOSであるわけだが、2021年に追加されたのがPikeOS for MPUである。こちらのMPUはMemory Protection Unitの意味で、MMUを持たないプロセッサ向けのPikeOSである。要するにArmのCortex-Rシリーズに向けたPikeOSの派生型であり、Cortex-Mやその他のMCU向けではない。なぜこんな製品が登場したかと言えば、市場に旧Xilinx(現AMD)のSoC FPGAなどが投入されるようになり、これがCortex-AとCortex-Rのヘテロジニアス構成を取っているからで、なので図3のようにCortex-AはPikeOSで、Cortex-RはPikeOS for MPUでそれぞれカバーするといった形の動作となる。こちらはPikeOSと異なり、複数のAPIはサポートされないのでPikeOS NativeのAPIで直接アプリケーションを記述する格好になるが、SYSGOによればPikeOSのコードのうち80%ほどがそのまま再利用できるとしている。
もう完全に航空宇宙や車載、産業、医療といった安全性とセキュリティが強く求められる用途向けということで、汎用的な展開は一切考えていないのがPikeOSである(汎用的な用途にはElinOSを、ということでこちらは30日間無償利用可能なTest Versionが存在するが、PikeOSにはそうしたものが一切ないのもまぁ理解できる話である)。当然顧客も欧州向けがメインで日本には代理店もないようだ。その意味でも日本では知名度は低いのだが、見えないところで使われているRTOSである。
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