水質汚染物質分解や重金属イオンの吸着除去に優れた複合触媒を開発:研究開発の最前線
名古屋工業大学は、酸化モリブデンとカーボン系複合粒子の常温、短時間合成プロセスを開発した。水質汚染物質分解や重金属イオンの吸着除去に優れ、飲料水の安定供給に向けた技術として期待される。
名古屋工業大学は2024年10月15日、酸化モリブデン(MoOx)とカーボン系複合粒子の常温、短時間合成プロセスを開発したと発表した。水質汚染物質分解や重金属イオンの吸着除去に優れ、飲料水の安定供給に向けた技術として期待される。
今回の研究では、機械的エネルギーを加えて物質の結合状態を変化させる、メカノケミカルプロセスに着目。汎用樹脂のポリプロピレン (PP) を市販のα-MoO3粉体と混合して短時間処理するだけで、MoOx/カーボン複合粒子を常温合成できることを発見した。
また、反応機構を検討したところ、材料間(MoO3-PP)の反応においてPPの分解時にα-MoO3の還元も進み、反応過程でPPはカーボンに変換されて複合構造になることが示唆された。この複合粒子は、紫外−近赤外域(200−2000nm)で高い光吸収能を持つ。太陽光のエネルギー分布(AM1.5)と比べると、この複合材料はほぼ100%の光領域をカバーできる。
試作した光熱変換触媒担持シートを水面に浮かべ、光を照射すると、急速に温度が上がり、水面付近が局所的に高温になった。優れた水蒸発速度(3.29kg m−2 h−1)に加え、約90%のエネルギー変換効率と長期安定性が示された。
複合構造を形成したことで、光エネルギーを化学反応に変換する光触媒機能も同時に発現した。この光触媒機能の酸化分解促進により、可視光や近赤外の照射でアゾ色素系汚染物質(メチルオレンジ)を短時間で分解、除去できた。また、電子構造評価や光触媒反応機構の特定結果から、MoOx相の構成組成(HxMoO3−y/MoO2)の制御が性能の最大化に寄与することも分かった。さらに、光を照射しなくても、汚染物質や重金属類を高効率で除去できる。
(a)光触媒反応過程での色変化(左)、構造別汚染物質除去性能(中)、推定されたMoOxの電子構造(右)。(b)汚染物質分解性能(暗室下)、(c)金属イオン吸着除去性能[クリックで拡大] 出所:名古屋工業大学
開発した複合触媒は、光駆動による急速水蒸発(光熱変換)と水質汚染物質分解(光触媒)機能、有害イオン−分子吸着および除去機能を有する。太陽光を利用できなくても安定的な性能が見込めるため、飲料水の安定供給に向けた技術開発への寄与が期待される。酸化物やプラスチックの種類を問わず広く適用できるほか、海水や雨水、工業廃水など広範な水浄化用途で活用できる可能性もある。
今後、多機能性を決める化学構造や制約環境因子を解析するとともに、大型試作システムの構築と屋外検証を進め、次世代触媒による淡水化技術の実装化を探求する。
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