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「ボルトの疲労強度」を理解するCAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる(15)(4/4 ページ)

金属疲労を起こした際にかかる対策コストは膨大なものになる。連載「CAEを正しく使い疲労強度計算と有機的につなげる」では、CAEを正しく使いこなし、その解析結果から疲労破壊の有無を予測するアプローチを解説する。連載第15回では「ボルトの疲労強度」について取り上げる。

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ボルトの疲労強度計算:応力振幅を求める

 図11図12にボルト軸方向応力を示します。ボルトの応力振幅を求めるには2つの情報(初期応力と最大応力)が必要です。図11は初期締結時の応力ですが、ボルトには引張応力(プラスの応力)、被締結体には少し分かりにくいですが圧縮応力(マイナスの応力)が発生しています。

ボルト軸方向応力 荷重ステップ1:初期締結
図11 ボルト軸方向応力 荷重ステップ1:初期締結[クリックで拡大]
ボルト軸方向応力 荷重ステップ2:荷重時
図12 ボルト軸方向応力 荷重ステップ2:荷重時[クリックで拡大]

 ボルトの応力を読み取る位置は、ボルトのねじ部の中央付近(図7のA-A断面)とします。初期締結時の応力、つまり平均応力は図11のボルト断面の応力を読み取ってもいいのですが、断面内の応力値が面内で少し変動しているので「ボルト軸力/有効断面積」で計算した値とします。このとき、「ボルト軸力/有効断面積」で計算した値と解析結果から読み取った値がほぼ一致していることを確認してください。10[%]以上の差があったらどこかが間違っています。

 荷重時のボルトの応力は図12からボルト断面の最大値を読み取ります。ボルトの応力振幅は式3で求まります。

式3
式3

 この応力振幅がボルトの疲労強度より小さければ、ボルトは疲労破断しないことになります。解析モデルにはねじ山がモデリングされておらず、最大応力はねじ谷底の応力集中が反映されていない応力ですが、式2にて疲労強度を切欠係数βを割っていることから、応力集中は織り込み済みとなります。安全率は2〜3[-]程度でよいと考えております。

 以上が、ボルトの疲労強度計算の手順となります。

解析結果の考察

 気付いた点を述べます。図13に荷重時の変位図を示します。口開きが発生しています。口開きが発生するとボルトは疲労破断すると考えてよいと思います。また、被締結体が固定されなくなるので、この点についてもアウトです。

変位図 荷重ステップ2:荷重時
図13 変位図 荷重ステップ2:荷重時[クリックで拡大]

 図14に初期締結時の接触圧力を示します。青色の領域(接触圧力がゼロの領域)が広いですね。初期締結時では被締結体が全面にわたって接触しているわけではなく、中央部に隙間が発生していること、つまり、少しだけ口開きしていることに注目したいと思います。このモデルのA寸法は20[mm]とかなり厚いものでしたが、A寸法が小さくなると高圧力領域が見る見る小さくなり、青色の領域(接触圧力がゼロの領域)が広くなります。

接触圧力 荷重ステップ1:初期締結
図14 接触圧力 荷重ステップ1:初期締結[クリックで拡大]

 ボルトの疲労強度計算では、ボルトの初期締結力をシミュレーション内で再現させることが必須となります。次回は、シミュレーショでボルトの初期締結力を発生させる方法を説明します。 (次回へ続く

⇒「連載バックナンバー」はこちら

Profile

高橋 良一(たかはし りょういち)
RTデザインラボ 代表

1961年生まれ。技術士(機械部門)、計算力学技術者 上級アナリスト、米MIT Francis Bitter Magnet Laboratory 元研究員。

構造・熱流体系のCAE専門家と機械設計者の両面を持つエンジニア。約40年間、大手電機メーカーにて医用画像診断装置(MRI装置)の電磁振動・騒音の解析、測定、低減設計、二次電池製造ラインの静音化、液晶パネル製造装置の設計、CTスキャナー用X線発生管の設計、超音波溶接機の振動解析と疲労寿命予測、超電導磁石の電磁振動に対する疲労強度評価、メカトロニクス機器の数値シミュレーションの実用化などに従事。現在RTデザインラボにて、受託CAE解析、設計者解析の導入コンサルティングを手掛けている。⇒ RTデザインラボ


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