Autodesk プラットフォームがもたらす製造の未来 DXからAI、サステナブルまで:Autodesk University 2024レポート(2/2 ページ)
米Autodesk(オートデスク)は、年次カンファレンス「Autodesk University 2024」を米国カリフォルニア州サンディエゴで開催した。同社 社長 兼 CEOのアンドリュー・アナグノスト氏らが登壇した初日の基調講演の模様をレポートする。
新機能の自動制約と図面自動化で設計の効率化を実現
続いて登壇したCTOのアラス氏は、Autodesk AIの基本理念について言及した。
アラス氏はAIに関する信念として、「未来と働き方を再考する必要がある」「現在抱えている課題を解決する必要がある」「AIは人間のスキルを置き換えるものではなく、人間の能力を強化するものである」と指摘し、Autodesk AIはこれらの信念に基づいて開発されていることをアピールした。
「OpenAIや他のクラウドプロバイダーが汎用(はんよう)AIを提供しているが、Autodeskの顧客には、より精密な2Dや3D CADジオメトリが必要だ。われわれは過去40年以上にわたり、デジタルとフィジカル(物理)の変換を支援してきた。業界の専門知識と長年のAI研究の先行により、高精度のCADジオメトリを提供する基盤モデルの開発に独自の立場にある」(アラス氏)。こうした思想の基に研究開発が進んでいる一例が、前述したProject Berniniだという。
さらに、アラス氏は新しいAI機能として「自動制約(Auto Constrain)」と「図面自動化(Drawing Automation)」を紹介した。現在、製造業における設計作業の多くが反復的なスケッチや部品検索に時間を費やしており、これらの作業は生産コストの少なくとも5%を占めているという。この問題に対し、新機能はスケッチや図面、メッシュを分析し、自動的に部品のスケッチ制約を設定すると同時に、2D設計から3Dジオメトリを生成する。これにより、設計者の作業効率が大幅に向上し、「より創造的な作業に時間を割くことが可能になる」とアラス氏は強調する。
一方で、アラス氏は「全てのAIが基盤モデルに基づく必要はない。プロジェクトや製品のワークフロー全体で使用する“シンプルなAI”も重要だ」と説く。その一例が「Autodesk Assistant」だ。これは自然言語でのやりとりで、CADモデルの生成/修正、設計質問への回答、タスクの自動化を実行する。「例えば、建物の特定階の扉の材質変更や映画セットへのオブジェクト配置、工場レイアウトの最適化提案なども将来的にはAutodesk Assistantで可能になる」(アラス氏)。
さらに、アラス氏はデータの取り扱いと知的財産についても言及した。「AutodeskではAIを活用する際のユーザーの知的財産保護を重視している」(アラス氏)とし、AIで作成された設計情報は、既存の製品機能と同様にユーザーの知的財産として扱う。また、Project Berniniのような先進的なAI技術を搭載する場合、ユーザーにはAI機能のオン/オフを選択する権利が与えられる。「機能をオフにすれば、既存の設計資産がAIの学習データとして使用されることはない」とアラス氏は明言した。
なお、同社は約35社が参加するAIアドバイザリー・信頼評議会を通じて、AIロードマップの構築を進めているという。
バスケ会場からオリンピック会場へ改修 Autodeskなら3週間半もあればOK
基調講演の最後には、2028年開催の「ロサンゼルスオリンピック・パラリンピック競技大会」(以下、LA28)の会長 兼 社長であるCasey Wasserman(ケイシー・ワッサーマン)氏が登壇し、アナグノスト氏と対談した。
Autodesk プラットフォームは、LA28および米国チームの公式プラットフォームに選出されている。LA28では常設会場を新設せず、既存施設を改修して活用する“サステナブル”な設計原則にのっとるという。基調講演では「Crypto.com Arena(旧ステープルズ・センター)」を例に、その取り組みが紹介された。
同センターは、NBAやNHLの試合終了から3週間半でオリンピック用の体操会場に改修する必要がある。ワッサーマン氏は「一般的にオリンピック・パラリンピックは大会準備の85%が開会前の18カ月に集中する。LA28ではその期間に60億米ドルを支出する計画だ。(中略)特に、最後の4カ月は1週間に1億5000万米ドルを一時的な建設に費やす。これは米国史上最大規模の建設プロジェクトになる」と述べる。
こうした大規模プロジェクトには、労働力の確保や安全性の担保、労働組合との契約など、複雑な課題も含まれる。さらに大人数の移動手段の確保も必要だ。これらの課題に対し、Autodesk プラットフォームでデータを集約/分析し、公共交通機関の安定運行計画も堅持していくという。
また、“サステナブル”を掲げるのであれば、施設の建設や維持による二酸化炭素排出量も最低限にする必要がある。この点についてワッサーマン氏は、以下のように展望を語った。
「オリンピックを契機に、LA(ロサンゼルス)の建物のエネルギー効率を向上させるなど、長期的な持続可能性への貢献を目指す。LA28の構想は、単なるスポーツイベントを超えた野心的なものだ。1984年に開催したLAオリンピックの経済的成功を目指しつつ、公共交通機関の整備や持続可能性の向上など、都市の長期的発展を重視している。これらの取り組みが成功すれば、“都市を変える”という新たなオリンピックモデルを世界に示すことになるだろう」(ワッサーマン氏)
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