香炉が植物鉢に変身 「わびさびポット」が作る仏具の新しい“癒やし”:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(18)(4/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。第18回では香炉を植物の鉢に見立てた商品「わびさびポット」などを展開するハシモト清の橋本卓尚氏に話を聞きました。
仏具業界の先細りを防ぐために
――この企画展について、同業者の方や取引先の方からはどういった反応をされていましたか?
橋本さん 企画展での出来事は、富山に帰ってきてすぐに同業者に共有しました。同じ内容を複数の方に話しているので、何度も何度も繰り返して話し方がうまくなってきている気がします(笑)。仏具を植物鉢として販売すること自体には、同業者の8割くらいは支持してくれますが、残りの2割からは批判的な意見をいただくこともあります。
短期的な視点で見ると、「仏具はセットで売れなければ意味がない。売り上げが立たない」と考える人もいます。確かに、それはその通りだと思います。しかし、長い目で見れば、仏具を使わない人々に向けて仏具との接点づくりや習慣の発信や提案を続けていかなければ、そもそも仏具業界そのものが先細りしてしまう、と思うんです。
新商品の試作品も展示されていました。販売前でしたが、「欲しい!」という声が多かったのだそうです。
――手を合わせて何かを思う時間って、少なくなりましたよね。強いて言うなら、年始の初詣のときくらいでしょうか。
橋本さん そうですね。初詣は信仰心に関係なく、習慣やイベントとして残っている感じがします。私は自宅に仏壇があるので、仏壇の前で手を合わせる機会もよくあります。今回の企画展が始まる前にも、仏壇の前で「じいちゃん、ばあちゃん、頼んだよ」と手を合わせ、「企画展が成功して無事に帰って来られますように」と祈りました。
仏間や神社で手を合わせ、「こうなってほしい」「こうありたい」と祈る。それって結局自分の気持ちの問題なのですが、思いをはせる時間があることによって、それが安心や癒やしになったり、切り替えができたりするので、意味のある行為だと思います。
最近は仏間のない家も増えましたし、そういった住空間の変化に合わせて、仏具自体も小型化されたりデザインが変わってきたりしています。
前提としてもちろん宗派の問題などはありますが、そういった時代の変化を考えると、仏具一式を買いそろえ、正統な方法で仏間を作るということだけがただ1つの正解というわけでもない気がします。
植物鉢の隣に、小さな香炉をお香立てとしてまずは置いてみる。気が付いたら、故人との思い出の写真やお菓子のお供えが置かれはじめて、そこに手を合わせるための場所と時間が生まれる。故人のことを思い、だんだん他の仏具を買いそろえてみようと思う。大切な1つのプロダクトが起点となって新しい習慣が生まれ、そこに仏具が後からそろっていく。例えばですが、そんな順番があってもいいと思うんです。
あとがき
橋本さんとの出会いは、2023年11月に富山県高岡市で開催された、ツギノテというクラフトフェアでした。その出展ブースで見たわびさびポットも、会場となった立体駐車場の一角で日光に照らされていてすてきでした。
でも、今回この会場で見たわびさびポットは、渋谷にある個性的な建物という立地や、一緒に展示されているアップサイクル家具との相性がそうさせたのか、いっそう格好よく、洗練されたものに見えました。今後、自社ブランドをより高付加価値なものとして発信していくために、あるべき姿や発信したいことへのブレない軸を持つことと同時に、その実現のためであれば臨機応変に変化し続け、新たなことに挑戦していける姿勢を持つ大切さを感じました。
(ものづくり新聞記者 佐藤日向子)
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ハシモト清で勤務されている間宮 史佳(まみや ふみか)さんのインタビュー記事
2023年のツギノテイベントレポート
著者紹介
ものづくり新聞
Webサイト:https://www.makingthingsnews.com/
note:https://monojirei.publica-inc.com/
「あらゆる人がものづくりを通して好奇心と喜びでワクワクし続ける社会の実現」をビジョンに、ものづくりの現場とつながり、それぞれの人の想いを世界に発信することで共感し新たな価値を生み出すきっかけをつくりだすWebメディアです。
2023年現在、160本以上のインタビュー記事を発信し、町工場の製品開発ストーリー、産業観光イベントレポート、ものづくり女子特集、ものづくりと日本の歴史コラムといった独自の切り口の記事を発表しています。
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新卒で金型メーカーに入社し、金属部品の磨き工程と測定工程を担当。2020年からものづくり新聞記者として活動。
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