香炉が植物鉢に変身 「わびさびポット」が作る仏具の新しい“癒やし”:ワクワクを原動力に! ものづくりなヒト探訪記(18)(3/4 ページ)
本連載では、新しい領域にチャレンジする中小製造業の“いま”を紹介していきます。第18回では香炉を植物の鉢に見立てた商品「わびさびポット」などを展開するハシモト清の橋本卓尚氏に話を聞きました。
都市の忙しい日々に、ゆったりとした時間の流れを作りたい
――このイベントの目的としては、東京の人たちに訴求したいという思いも大きかったのでしょうか?
橋本さん そうですね。もともと会場は東京で、と決めていた中で、今回ありがたいことに、アップサイクル家具の制作/販売などを行う家’s(イエス)の伊藤昌徳(いとう まさのり)さんのギャラリーをお借りできることになり、企画展が実現しました。
わびさびポットは、もともと30〜40代の男性に人気があり、なかでもデザイナーなどのクリエイティブなお仕事をされている方に支持されていました。ですが、なかなか県外の方にプロダクトを見てもらえる機会はなかったので、東京周辺に住んでいる方からのご意見を聞く場としても考えていました。
――わびさびポットが椅子やタンスなどの家具と一緒に置いてあることによって、より日常のシーンを想像しやすい展示になっていました。椅子に座って、わびさびポットと共にある日常の一部を体験できるスポットも準備されていましたよね?
橋本さん はい、座ってひと息つけるような場所を設けて、来場者の方に「東京のど真ん中で休憩しませんか?」とお声掛けしました。椅子に座ってお香を焚いていただいて、いろいろな話がゆっくりできたので、平日を含めて長く開催してよかったと感じました。
忙しい毎日の中でホッとひと息つく時間。植物の面倒を見たりお香を焚いたりするような『心地の良い所作』を感じていただけるきっかけになれたらと思います。
「言われないと仏具だと分からない」
――来場者から感想を聞く機会も多かったかと思いますが、その中でも特に印象的だったものはありますか?
橋本さん 「言われないと仏具だと分からない」と言われたのは結構驚きました。仏具問屋を営む自分にとって、それは仏具にしか見えていないわけですが、それが見せ方にもいろいろな工夫ができそうだと気付くきっかけになったんです。
また、同じ業界の人にとっては、セットで販売されるはずの仏具のうちの1つが単体で、こういうふうに展示されているのが意外だったそうです。でも、「こうやって展示されていると単体でもかっこいいね」と言ってもらえてうれしかったです。
試作段階の新商品に興味を持ってくれた方も多く、この展示がきっかけで初めて植物を育ててみようと思ってくれた方もいて、そういった反応からも手応えを感じました。
――会場で見つけた「Certificate of Authenticity(サーティフィケイト オブ オーセンティシティ、訳:真正性証明書)」というものが気になっていました。こちらはどういったものなのでしょうか?
橋本さん これは、そのわびさびポットが #SilenceLABの作品だということを証明するものです。仏具が生まれた鋳造工場、そして着色を担当した職人や着色所の名前を1つ1つ記載しています。
――量産品ではなく、それぞれ一点ものということで、受け取った側がどこでどのように、誰の手によって作られたのか知ることができるのは、とても素敵だと思います。英語で書かれているというのは、海外の方向けに作ったということでしょうか?
橋本さん 「このプロダクトは海外の方がウケがいいんじゃないか」というのはずっと周りの方にも言われていて、実際にこれから海外進出に力を入れていきたい気持ちはあります。
でも、遠い場所へ植物を運ぶことや、越境ECに挑戦すること、背景をしっかり伝えた上で販売をすることは、段階を踏んでからでないと難しいのかなという気もしています。
今は、すでに海外進出をされた方々からそれぞれの国や展示会での経験を聞いて勉強しているところです。本格的に参入する前に、まずは海外の展示会に挑戦してみたいと思っています。
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