EVはガソリン車より燃えにくい? リチウムイオン電池の発火リスクを考える:今こそ知りたい電池のあれこれ(26)(3/3 ページ)
注目を集めるリチウムイオン電池をはじめ「電池のあれこれ」について解説する本連載。今回は、リチウムイオン電池の発火リスクと安全性に焦点を当てて考えたいと思います。
安全なはずのリン酸鉄リチウム系のエネルギー貯蔵システムに発火リスク
一方、エネルギー貯蔵システム(ESS)は、電気自動車と比べると大電流で酷使されることが少なく、発火リスクが小さいと考えられてきました。しかし、近年ではESSにおいても発火事例が散見されているのが現状です。例えば以前にもご紹介したように、材料特性として比較的安全とされているリン酸鉄リチウム系の電池を用いた場合でも、爆発を伴う火災事故が発生し、消火活動にあたった消防士2人が亡くなるという悲劇的な事態が報告されました。
リチウムイオン電池の「熱暴走」は本質的なリスクです。リチウムイオン電池自体が燃焼の3要素を全て兼ね備えており、そもそも「燃えるもの」であるという前提で扱う必要があります。また、電池技術の発展に伴い、エネルギー密度の増大によるハザードレベルの増大リスクも避けられません。
そういった点を踏まえた上で「安全性」というものを考えていく必要があります。
一口に電池と言っても、その状態は単電池であるセルから始まり、組電池であるモジュールやパック、そして最終的に電池を搭載する製品へと至ります。それら1つ1つの階層ごとにそれぞれ異なるリスクや安全対策が必要です。
発火を伴う危険事象というのは、単に電池の特性や使われている材料によって発生が決まるようなものではなく、セル、モジュール、パック、最終製品といった一連の流れの髄所において、その構造や製造工程、ユーザーの使い方など、多様な要素が絡んだ結果として生じるものです。
電池の材料レベルでの改良や燃えにくい材料の採用、電池の温度や電圧を監視するバッテリーマネジメントシステム(BMS)の導入、製品の設計段階から発火しにくい構造を取り入れるなど、各メーカーは危険事象の発生を防ぐために各階層におけるさまざまな安全策をいわゆる「フェイルセーフ」の考え方に基づいて設定しています。
また、ユーザー側も適切な取り扱いが求められます。例えば、電池を高温環境に放置しない、強い衝撃を与えない、使用後は適切に廃棄するなどの基本的な注意を守ることが重要です。
今回は、用途の広がりを見せるとともに、急速に普及が進んでいるリチウムイオン電池の発火リスクと安全性について、いま一度整理してみました。
リチウムイオン電池の異常発熱およびそれに起因する発火事故は、ひとたび発生すれば非常に大きな問題となります。カーリットの受託試験部では、今後も電池の性能評価を通じて製品の「安全性」向上に貢献できるよう努めて参ります。
電池というものは、今や私たちの生活には欠かせない存在です。
むやみに恐れるのではなく、その性質を正しく理解し、適切な運用方法を守って上手に付き合っていきましょう。
著者プロフィール
川邉 裕(かわべ ゆう)
株式会社カーリット 生産本部 受託試験部 電池試験所
研究開発職を経て、2018年より現職。カーリットにて、電池の充放電受託試験に従事。受託評価を通して電池産業に貢献できるよう、日々業務に取り組んでいる。「超逆境クイズバトル!!99人の壁」(フジテレビ系)にジャンル「電池」「小学理科」で出演。
▼株式会社カーリット
https://www.carlithd.co.jp/
▼電池試験所の特徴
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/
▼安全性評価試験(電池)
http://www.carlit.co.jp/assessment/battery/safety.html
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