モビリティDX戦略が目指す「SDVの日系シェア3割」はどうすれば実現できるのか:SDVフロントライン(3/3 ページ)
100年に一度の変革期にさらされている日本の自動車業界が厳しい競争を勝ち抜くための原動力になると見られているのがSDVだ。本連載では、自動車産業においてSDVを推進するキーパーソンのインタビューを掲載していく。第1回は経済産業省が発表した「モビリティDX戦略」でSDV領域を担当した吉本一貴氏に話を聞いた。
モビリティDX戦略のさらなる深掘りで「2.0」への進化も視野に
MONOist SDVの日系シェア3割の達成に向けたモビリティDX戦略の施策について教えてください。
吉本氏 1つ目はASRA(自動車用先端SoC技術研究組合)による、高度な自動運転を含むSDV実現に必要な先端SoC(System on Chip)の開発だ。ASRAでは、高性能化および多機能化を可能とするチップレット技術を活用した自動車用先端SoCを研究開発し、2028年までに要素技術を確立し、2030年以降の自動車への量産適用を目指している。経産省からも10億円の支援が決定している。
2つ目はシミュレーション技術の活用だ。自動運転技術の開発だけでなく自動車の周辺環境までを含めてシミュレーションできる技術が必要になる。日本は米国や中国と比べて、自動運転ソフトウェア開発に関する実走行テストの実施に制約があるなどの課題があるが、ここからさらに技術開発を加速/進展させるには実走行にこだわらずにテストが行えるシミュレーションの活用が必須になるだろう。
自動運転の安全性を評価するための交通外乱シナリオをデータベース化しているSAKURAプロジェクトや、仮想空間で自動運転の安全性評価環境の構築を目指すDIVP(Driving Intelligence Validation Platform)など、これまでの政府プロジェクトの成果を活用していく必要がある。また、シミュレーションにはデータが必要になるが、現状のモビリティDX戦略から一歩先に行く形で生成AI(人工知能)を活用することも出てくるだろう。
MONOist モビリティDX戦略を推進する上での業界団体との連携体制について教えてください。
吉本氏 業界団体との連携はモビリティDX戦略の大前提になっている。モビリティDX検討会のワーキンググル−プにも主要団体に参加してもらっている。
まずJAMA(日本自動車工業会)には、モビリティDX戦略を推進する中心的な役割を果たしてもらうことを期待している。車載ソフトウェアの標準化団体であるJASPARには、SDVを実現する上で必要なハードウェアとソフトウェアを分離するためのAPIの標準化に貢献してもらうことになる。2024年10月に同会の推進体制が発表された。
JSAE(自動車技術会)には人材育成などについての推進を担ってもらうことになる。モビリティDX戦略のコミュニティーとなる「モビリティDXプラットフォーム」の構築と運用を受託してもらうことが2024年9月に決まった。同年10月17日には、ローンチイベントを「Japan Mobility Show 2024」の会場内で開催する予定だ。
また、JSAEが推進してきた自動運転AIチャレンジなどはSDVに関わる人材育成において今後も重要な取り組みになってくると考えている。ハードウェアのようなメカを中心に扱うの意識が強い自動車業界で、デジタル人材が活躍できるような環境を整備していく必要がある。現在のままでは、ソフトウェアを中心としたデジタル関連のエンジニアの関心が自動車業界に向かないことを危惧している。
MONOist モビリティDX戦略を発表して約5カ月経過しましたが、どのような手応えがありますか。
吉本氏 世界各国を見てもこのような戦略を政府レベルで出しているのは日本くらいしかない。国内自動車業界とは長らく協力してさまざまな取り組みを進めてきたが、今回のモビリティDX戦略の枠組みでは海外メーカーや半導体業界との間でもさまざまな話が出ている。自動車メーカーだけにとどまらない取り組みであることが伝わるとうれしい。
また、SDVの日系シェア3割、2030年で約1100万〜1200万台、2035年で約1700万〜1900万台という目標を明確化できたこともよかったと考えている。
ただし、モビリティDX戦略は今回の発表で終わりというわけではない。さらに今後も深掘りして行く必要がある。可能であればモビリティDX戦略「2.0」という形で、今ある内容をより具体化していきたい。
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