優れた熱電特性を有し有害元素を含まない熱電材料を開発:研究開発の最前線
東京都立産業技術研究センターは、温度差を電力に変換する「熱電材料」として、優れた熱電特性を有し有害元素を含まないp型リン系熱電材料を開発した。
東京都立産業技術研究センター(都産技研)は2024年10月4日、温度差を電力に変換する「熱電材料」として、優れた熱電特性を有し有害元素を含まないp型リン系熱電材料を開発した。併せて、この材料が熱電デバイス駆動に重要な機械特性と熱膨張特性が優れていることも公表している。
今回の研究によって得られた成果
今回の研究では、銀(Ag)とゲルマニウム(Ge)、リン(P)の化合物であるAg6Ge10P12へ最適な量の銅(Cu)とガリウム(Ga)を添加したAg5.85Cu0.15Ge9.875Ga0.125P12において、熱伝導率の低減と電気特性の最大化に成功した。これにより、リン系熱電材料として初めて応用の指標となる無次元性能指数ZTについて、最大ZT1以上を450℃で達成し、室温から450℃までの平均ZTで最高値を記録した。
本研究で開発したAg5.85Cu0.15Ge9.875Ga0.125P12と他のリン系熱電材料におけるZTの比較(a)、他の高性能な熱電材料における機械特性の比較(b)[クリックで拡大] 出所:東京都立産業技術研究センター
加えて、多くの高性能な熱電材料で欠点となる機械特性(ヤング率、ビッカース硬度、破壊靭性、圧縮強度)が優れていることも判明した。
また、熱電デバイス動作時に材料内に温度勾配が生じる熱電材料は、熱応力による熱電材料自身へのクラックの発生を避けるために線形な熱膨張が望まれ、その熱膨張係数は剥離しづらい電極選択の指標となる。さらに、デバイスの出力を最大化するには、電気的な相性を表す適合因子を基にペアとなるn型熱電材料を選択する必要がある。
そこで、今回の研究では、Ag6Ge10P12が線形な熱膨張を示す点、熱電デバイスの作製に適した金属電極候補として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)がある点、ペアとなるn型熱電材料候補として、ハーフホイスラー、スクッデルダイト、ケイ化スズ化マグネシウムが適す点を明らかにして、デバイス作製の指針を提案した。
今後は、今回の材料とn型熱電材料を組み合わせることで、中温域熱電デバイスの試作および発電の実証を行う。今回の研究で得られた成果を活用したい中小企業も募集する。
今回の研究の背景
熱によって生じる材料内の温度差を電力に変換する熱電材料は、排熱回収やIoTセンサー用自立電源としての応用が期待されている。
しかしながら、中温域における従来のp型熱電材料は、「有害元素を含む点」「機械特性に乏しい点」「動作温度付近における非線形な熱膨張率の変化により熱電材料自身へのクラックの発生や金属電極の剥離を起こす点」などの多くの課題を抱えており、社会実装を進めるためにはこれらの課題をクリアした材料の開発が求められていた。
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