元日産の関氏が鴻海で考える、EVの苦境の乗り越え方:電動化(2/3 ページ)
シャープは技術展示イベント「SHARP Tech-Day’24 “Innovation Showcase”」において、親会社である鴻海精密工業とともに推進するEV戦略を発表した。
なぜ鴻海がEV?
鴻海がなぜEVに取り組むのか。日産自動車や旧日本電産(現ニデック)を経て、2023年2月に鴻海のEV事業の最高戦略責任者(CSO)に就任した関氏が説明した。
鴻海は、コネクターメーカーとしてスタートしたことから、フォックスコンという通称を持つ(Foxconn。フォックスはキツネで、機敏に動く企業でありたいという創業者の願いが込められている)。その後、スマートフォンやゲーム機、PC、サーバなどの受託生産で成長してきた。
2023年の売上高は1980億米ドル(約29兆円)で、100万人の従業員が働いている。「受託生産は、早い段階で取引先の知的財産など情報を開示してもらう必要がある。従業員がこれだけいると情報漏えいリスクを抱えているが、そうした事故を起こさずに信用を重ねて成長してきた」と関氏は説明する。
コロナ禍でPCやゲーム機の需要が伸びたことが鴻海の売り上げに追い風となったが、2017〜2019年ごろには既存の領域での受託生産での成長に限界を感じていたという。そこで新領域に挑む3+3という戦略がスタートし、EVの他、デジタルヘルスやロボティクス、AI、半導体、次世代通信などが注力領域となっている。
苦しいEV市場を鴻海はどう乗り切る
ただ、EVに関しては新興メーカーも伝統的な自動車メーカーもさまざまな苦しみを抱えている。販売の伸び悩みや、収益性の低さだけでなく、政府の方針や環境規制に市場が左右されることも悩ましい。関氏も「EVに対して楽観的、悲観的なさまざまな見方があるが、現実には非常に痛い商品だ。高くて、不便で、もうからない。年々改善してはいるものの、まだ3つの“痛み”が残っている」と市場を見る。
新車市場は、収入と人口のピラミッドで考えることができる。ピラミッドの上の方は高収入で人口は少なく、収入が下がるにつれて人口が増えて裾野が広がる。「ピラミッドの真ん中あたりに、新車を購入できるかどうかのラインがある。だいたい地球上の20億人くらいだ。EVはピラミッドのさらに上の方、2億人くらいにしか届かない。鴻海のモデルCの価格は450万円からスタートするが、それでもまだ高い」(関氏)。
EVが高価な理由としてよく挙げられるのが駆動用バッテリーだ。「不便を嫌う人が多いのでバッテリーが大きい。バッテリーが大きいので高くなる。また、ユーザーには必要ないようなところまでコネクティビティが装備されていることや、使える場面がほとんどないADAS(先進運転支援システム)が、コストを高くしている」と関氏は分析する。
EVの市場を広げるには、コストと価格を低減し、先述したピラミッドの中でEVを購入できるラインを下げていく必要があるという。「コストダウンとプライスダウンは、EVがHEV(ハイブリッド車)に追い付くまで続く。ただ、同じような機能のままEVの値段が下がると、高いEVを買った人から見れば残価が下がってしまうことになるので市場も困惑する。残価を乱れさせながらコストダウンが当面続く」と関氏はEVの価格の悩ましさについて述べた。
広がるEVのピラミッドの中で、鴻海はハイエンドから普及価格帯まで受託生産でカバーする考えだ。ハイエンドは生産の受託、普及価格帯は生産だけでなく開発から受託する。開発から受託する際に強みになるのが、モデルCのような自前の商品だ。「試乗した日本や外国の自動車メーカーには驚かれた。スマートフォンを作れるのは知っていたが、クルマでここまでできているとは、と。細かいところに改善の余地はあるが、どこに出してもおかしくないところまで持っていきたい」(関氏)。
ただ、関氏は「受託生産は割ともうからない」と話し、EVを持続的な事業にするには利益を確保しやすくすることが重要だという。そこで、鴻海はプラットフォームの外販や部品のモジュールでの提供、充電器、エナジーストレージなども手掛ける。「バッテリーや電気電子アーキテクチャなどはまだ競争力が足りていないが、いったん市場に出して競争力を高めていく自信も十分持っている。ZFとの合弁会社で乗用車向けのシャシーを手掛けているし、M&Aもやりながら自前でやっていく」と自信を見せた。
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